逮捕された「カッパ・クリエイト」元社長の田辺公己容疑者(=22年6月)
逮捕された「カッパ・クリエイト」元社長の田辺公己容疑者(=22年6月)

回転ずしチェーン大手「はま寿司」の営業秘密を不正に持ち出したとして、「かっぱ寿司」を運営する「カッパ・クリエイト」元社長の田辺公己容疑者(46=現在は社長を辞任)らが不正競争防止法違反容疑で逮捕された。田辺容疑者は2020年にはま寿司の取締役から同社に転職し翌年、社長に就任していた。近年、同種の逮捕事案が続いているが、一般的に転職者は、以前勤めていた会社のデータやノウハウなどを持っていることが多く、特に同業他社への転職ではそれを活かしたいと考える人もいるだろう。「社内情報持ち出し」に関して、逮捕されるかどうかの境界線はどこにあるのか。

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 企業法務に詳しい村松由紀子弁護士(弁護士法人クローバー)によると、今回の容疑である「不正競争防止法違反」は、刑事責任を問われる対象になるか、民事上の責任を負うにすぎないか、という点で大きく分かれるという。

 田辺容疑者は不正に営業秘密を持ち出したとして刑事責任の対象となったのだが、では、何が企業の「営業秘密」に当たるのか。

 村松弁護士によると、営業秘密に該当するには、▽秘密であることが従業員に明らかな形で管理されている「秘密管理性」▽事業に有用な情報である「有用性」▽保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にある「非公知性」、が必要とされている。

 そのうえで、不正競争防止法では、刑事罰の対象となる営業秘密の「持ち出し」について、対象を限定しているという。

「目的が『不正の利益を得るため』であることがひとつ。また持ち出す手段についても、『詐欺などの行為』『管理侵害行為』がないと刑事罰の対象にはなりません」(村松弁護士)

 田辺容疑者は、かっぱ寿司に転職する前に、仕入れ価格などのデータを複製して取得したとされている。

 村松弁護士は、データの閲覧には限られた社員だけが持つパスワードが必要だったことや、そのパスワードを元部下から聞き出したなどの事実から「管理侵害行為」についての証拠が集まったこと。また、はま寿司の退職時に秘密保持の誓約書に署名していたことなどもふまえ、「不正の利益を得る目的」の立証もできると判断して、警視庁が逮捕に踏み切ったものと推察する。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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雑談でも「営業秘密」を漏らすのはNG