ではどのような方法をとるのが望ましいのだろうか。

岸田首相が心から『安倍元首相は国葬にふさわしい』と考えるなら、憲法72条に明記された、首相の職務として国会に『元首相国葬法案』を提出して堂々と議場で論ずるべきです。その上で、主権者である国民の世論が納得して国会の議決が得られれば、民主的手続きを経たものとして安倍元首相の国葬に価値が出ます。今のままでは、国論が定まらず強引な国葬強行によって、また、国民の『分断』が生じます。単に愚策です」(小林さん)

 安倍元首相の通夜や葬儀の献花台には、1キロの行列ができるなど、哀悼の意を示す国民が多くいたことはたしかだが、

「国民的総意を確認しないままなら、国葬の私物化です。国葬の価値がなくなります」(以下、同)

 との考えだ。

 また、岸田首相が、国内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられたことも踏まえた、とした点についても、

「安倍元首相は、首相在任期間が長かったから国際的に顔を知られており、各国首脳は外交儀礼上、哀悼の意を唱えた。それをもって日本の評価を高めたというのはおかしな話です」

 と疑問を呈し、こう指摘する。

「安倍元首相は、まだ歴史的評価が定まっていない政治家なんです。『森友・加計学園』や『桜を見る会』の問題は、安倍元首相の権力の私物化とも考えられます。官僚の人事権を官邸が握ることで、官僚を支配してきた安倍元首相の手法により、官僚も堕落した。権力による隠蔽(いんぺい)などが明らかにされてから、安倍元首相の歴史的な評価がなされるべきです」

 過去30年間で、賃金が上がらず、物価は上昇した。アベノミクスで生活が良くなったと実感できている国民も多くはなさそうだ。

「そのうち10年以上、安倍元首相は幹事長、官房長官、首相として担ってきたわけだから、日本の経済を悪化させた政治家としても大きな責任があるはずです。そういう意味においても、国葬に値する人物なのか。もっと時間をかけて冷静に判断されるべきであると思います」

 いま一度、しっかりとした議論が必要ではないだろうか。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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