安倍昭恵さん=撮影/上田耕司
安倍昭恵さん=撮影/上田耕司

「まだ夢を見ているようです……」。7月12日に営まれた安倍晋三元首相の告別式で、喪主を務めた妻の昭恵さんはあいさつでそう語った。事件から4日ほどしか経っていない。夢であってほしいというのが実感だろう。しかし、永田町の現実は動き始めている。次の「政局」をめぐり、この昭恵さんの名前がクローズアップされているというのだ。

【写真】出棺する時の安倍昭恵さん

 12日、増上寺(東京都港区)での葬儀が終わると、安倍元首相のひつぎを乗せた車は、多くの人が集まった沿道を抜け、寺からほど近い永田町方面へと向かった。岸田文雄首相らが待つ首相官邸前に着くといったん停止。国会正面前にも多くの国会議員らが並び、車が通ると、手を合わせ、目を閉じて黙礼したり、見送ったりしていた。

 国会近くで構えていた報道陣の前を車が通り過ぎた際、昭恵さんの姿が一瞬、見えた。位牌(いはい)を顔の前にかざすように持ち、大勢の報道陣を見かけると、頭を下げた。

 車は国会周辺を1周し、別れを告げた。

国会前を通る安倍元首相のひつぎを載せた車両=撮影/松永卓也(写真映像部)
国会前を通る安倍元首相のひつぎを載せた車両=撮影/松永卓也(写真映像部)

「衝撃すぎて、今も混乱が続いている。今後どうなるのか。派閥、自民党、特に安倍派にとって安倍会長の存在は絶対的なものでしたから」

 そう話すのは、安倍派の衆院議員。

 衆院の議員会館は、バッジを失えば、原則3日で退去を求められる。そして安倍氏が亡くなり、衆院山口4区が不在となる。

 通常であれば、公職選挙法の規定に従い、10月にも補欠選挙という流れになるのだが、昨年10月の衆院選での「1票の格差」をめぐる訴訟がまだ最高裁で続いている。

 総務省によれば、最高裁判決が9月15日までに確定しなければ、先送りとなる見込みだ。公選法では、関係する選挙の訴訟が続いている場合には、補選は行えないとされているためだ。

 ここで気になるのは、6月に岸田首相に勧告された「10増10減」の新たな区割り改定案だ。山口県は衆院の小選挙区の定数が4から3へと1減になる。

 現在は、1~4区を自民党が独占しており、1区は高村正彦元副総裁の長男・正大氏、2区は岸信夫防衛相、3区は林芳正外相、4区は安倍元首相だった。ここから1人外れるとなると、公認調整は難航すると予想されていた。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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