加齢性難聴データ
加齢性難聴データ

■音に包まれる環境が夜の苦痛を改善

 隠れた病気がないかを調べること、そして耳鳴りに対する不安を取り除くことが治療の第一歩だ。

「耳鳴りに悩む患者さんの多くは『このまま聞こえなくなるのでは』『大きな病気が隠れているのでは』といった不安があります。大きな病気は見つからなかったこと、加齢性難聴であればそれが原因だと考えられることなどを説明すると、不安がなくなり、耳鳴りが気にならなくなる方もいます」(田渕医師)

 耳鳴りを正しく理解してもらうための説明は「教育的カウンセリング」といって重視されている。現状、耳鳴りをなくす薬はなく、教育的カウンセリングと音響療法を組み合わせた治療が柱となる。目的は耳鳴りによる苦痛を感じないようにすることだ。

 音響療法では、周囲の音を大きくすることで聴覚の感度を下げ、耳鳴りの感じ方を弱くする。具体的な方法に、環境音、サウンドジェネレーター、補聴器などがある。聴力検査や耳鳴りの強さを調べる耳鳴検査などで、難聴や耳鳴りの程度を診断したうえで選択する。

 静寂の中では脳が聞こえの感度を上げる。このため、耳鳴りがある人は夜間に悩まされることが多い。そこで柘植医師は、環境音を流し、静寂を回避する方法をすすめている。ポイントは四つだ。

(1)音に包まれるような寝室の環境をつくる。どこに音源があるのかわからないように複数のスピーカーを置く。一つしかなければスピーカーを壁や天井に向け、音を反射させる(イラスト参照)。

(2)就寝前から起床時まで音を流し続け、就寝時のほか、中途覚醒時や起床時の苦痛も改善する。

(3)音量は耳鳴りの苦痛がとれて、かつ耳鳴りが聞こえる程度にする。TRT(Tinnitus Retraining Therapy)という耳鳴り治療の考え方に基づくもので、耳鳴りがあっても苦痛を感じないように脳を順応させていく。

(4)川のせせらぎや滝の音、もしくは低音から高音まで多く含まれる雑音「広帯域ノイズ」がよい。

 これらを適切に行えば、すぐに効果を感じられるという。睡眠障害があれば、薬も併用する。

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補聴器を音響療法のツールとして活用