樋口院長によると、コロナ禍でアルコール依存症が増えているというデータはない。一方で、2020年度のドメスティック・バイオレンス(DV)相談件数が前年度の1・6倍に増え過去最多になったなど、DV件数の増加が報告されている。「アルコールが要因のDVが増えている可能性はあると考えられます」と樋口院長は推察する。

 アルコール依存症は、当事者が「自分は違う」と、事実を認めたがらない「否認の疾患」と言われ、医療機関の受診に二の足を踏みがちだ。最近は酒を断つのではなく、摂取量を減らす「減酒」の治療法もできたため、敷居は以前より低くなった。とはいえ、アルコール依存症を扱う医療機関がどんな場所なのか、まだあまり知られていないことが受診をためらう一因かもしれない。

 樋口院長は、

「依存症と診断されてすぐに入院させられたり、あれをやめなさい、これをやめなさいなどと強く指示されるようなイメージを持たれがちですが、実際は全く違います。患者さんは、お酒をやめたくないと話す一方で、このままではまずい、変わりたいという思いも持っています。私たちは後者の思いに寄り添ってお話をうかがい、その患者さんごとに、どうしたらいいかを一緒に考えていくのです」と話す。

 前園氏も続ける。

「患者さんは、お酒をやめるよう周囲から耳にタコができるほど言われているはず。依存は『わかっちゃいるけど、やめられない』病気です。それでも飲み続けているのですから、仮に医療者側が強く指示したとしても意味をなさないんです。飲んでしまう背景にはさまざまな事情がありますから、安心して話せる環境をつくるのが私たちの役目。まずは気軽に相談してほしいと思います」

 18都道府県へのまん延防止等重点措置が21日の期限で全面解除される方向だが、コロナ禍以前の生活に戻るにはまだ時間がかかるだろう。「酒好き」とアルコール依存症の距離は実は近いそうで、酒を飲む人なら誰もが、何かをきっかけに依存症に陥る可能性がある。自分や家族、友達の飲み方が気になったら、まずは相談窓口の扉をたたいてみてもいいかもしれない。(AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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