実は、今回のウクライナ侵攻は、軍事作戦のプロが立案したのではなく、プーチン大統領とパトルシェフ書記、この2人だけで強引に推し進めたのではないか、と中村教授は推察する。その結果、冒頭のような「誤算」が生じているのではないか、と。

■指導者としての人格が壊れている

 そんな侵攻後の誤算への焦りが、3月4日、ウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所への攻撃となって表れたのではないか、と中村教授は見る。

「現場の兵士たちが暴走してやったこととは到底考えられない。ロシア指導部の何らかの関与は絶対にあったはずです。原発を狙うという、正気の沙汰とは思えないような判断に対してブレーキが効かなくなっている。プーチン大統領がこれから何をしだすか、予測できない」

 これまでロシアはNATOの脅威を訴え、ウクライナに非武装化と中立化を求めてきた。しかし、今回の侵攻に衝撃を受けた西側諸国はロシアとの亀裂をこれまでにないほど深め、NATOの中心的存在であるドイツは防衛力を強化する動きを見せるほか、NATOに加盟していないフィンランドでも、加盟を求める声が強まっている。ロシアの狙いが完全に裏目に出たかたちだ。「もう、プーチン大統領はウクライナに侵攻した明白な目的を失ってきて、戦争のための戦争という状態に陥っている。合理的な判断ができなくなっている」と、中村教授の目には映る。

 欧米諸国や日本はロシアへの制裁措置として国際銀行間通信協会「SWIFT」からの排除を決定。これによってロシアは貿易代金を得られなくなるなど、国際的な孤立を深めている。

「この経済制裁を受けて、プーチン大統領の取り巻きの富豪たちは大打撃を受けています。プーチン離れが急速に進んでいる。側近たちの心もどんどん離れていって、いまではおそらく、パトルシェフ書記しか彼を支える人がいないのではないか、というところまできている」

 プーチン氏が大統領そして首相と、ロシア国内で権力を握って22年。長年、冷徹な現実主義者と評されてきた。

「ところがもう、政策の良し悪し以前に、一国の指導者としての人格が壊れてきたことを感じます。そんなプーチン大統領の暴走を誰が止められるのか? 最悪の場合、戦術核兵器を使用する可能性だって否定できません。現実的に、いまのプーチン大統領の精神状態からすれば、そこにいつ踏み込むか、わからない状況。まさに一瞬一瞬が危機といえます」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)