僧帽弁閉鎖不全症の患者は比較的若い人が多いため、短期間で退院でき、社会復帰が早く、整容性に優れるMICSを選択するケースが増えている。だが、留意点もある。兵庫医科大学病院の坂口太一医師はこう話す。

「MICSは術式として、保険適用もされています。ただし、心臓を止めている時間が長くなり、手術時間も長くなるので、合併症を起こさないような手技が担保されている、経験豊富な病院・医師のもとで治療を受けることが大切です」

 さらに、病院選びの目安については「弁形成術自体が年間20例あり、MICSを50例以上経験している病院であれば安定した成績が期待できる」とのこと。坂口医師が代表理事を務める日本低侵襲心臓手術学会(J-MICS)のホームページに、代議員として掲載されている医師や病院は、MICSに力を入れているとみなしていいという。

■手術不適の症例にはマイトラクリップを検討

 本チャートの患者には適応しなかったが、僧帽弁閉鎖不全症には、「マイトラクリップ(経皮的僧帽弁接合不全修復術)」というカテーテルによる治療の選択肢もある。損傷した弁の部位をクリップで留める手技だ。人工心肺を使わないため、超高齢者や他の病気を持っているなど、手術が困難な人におこなう。ただし、これは根治的な治療ではないことに留意が必要だ。

 このように、心臓疾患の治療の選択肢は増えてきているが、病変の種類と程度に応じて適切な治療を選択し、しっかりと治して患者のQOL(生活の質)を取り戻すという治療の本質は変わらない。

 いずれの治療も、確かな診断と技術の優れた病院・医師のもとで受けることの大切さについて、両医師ともに繰り返し強調する。

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「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

【取材した医師】
兵庫医科大学病院 心臓血管外科教授 坂口太一 医師
順天堂大学順天堂医院 心臓血管外科教授 浅井 徹 医師

(文/伊波達也)

週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より