「補助員に選ばれるのは生徒にとってステイタス。泳力はもちろん、リーダーシップ、学力など、総合的な人間力を判断して体育科の教員が選抜し、校長が委嘱します。臨海学校に参加する高校生は朝の5時に浜に出て水温を測ったり、小屋から船を出したりして備えます。中学生はそんな高校生の姿を見て憧れる。こういう先輩と後輩の繋がりは、やはり6年一貫が生きてきます」

 2018年からは高校募集をやめて、完全な中高一貫校にした。

 縦の繋がりを生かして取り入れたのが、成城OBによるチューター制だ。一般入試で大学に進学した卒業生を、校長面接を経て採用。午後3時から7時まで自習室に滞在し、チューターを務めてもらう。なかには「チューターをさせてください」と、申し出る卒業生もいた。

「後輩を思う卒業生のアドバイスは、効果てきめんでしたね。チューターに教わった後輩が、自分もチューターになって恩返しをしたいと応募してきたこともありました」

 一連の改革で志願者は2倍に増え、大学進学実績や外部模試の偏差値も向上した。退職を決めたとき、教員に「担任している学年の生徒の様子はどう?」と尋ねると「8年前と全然違います」と、返事がかえってきた。

「もう成城は私がいなくても大丈夫。先生方がしっかりとやっている。伝統を守りながら、これからも成長を続けるでしょう」

 成城の正門で、今は栗原先生の代わりに、うたこ桜が生徒を見守っている。

(文/柿崎明子)

第1回「校長就任1年で「中退率」半減 評判“最悪”だった都立高校をよみがえらせた名物校長の3年間」
第2回「「制服か私服か」で校内が真っ二つ、校長が下した決断は 名門・都立小石川中高一貫化の軋轢と改革」から続く

○栗原卯田子/東京・中野区出身。1976年東京学芸大学大学院修了(教育学修士)後、東京都立高校の数学科教員に。八丈高校、小松川高校、本所高校などを経て、閉校が決まっていた水元高校(葛飾区)に最後の校長として着任。その後は中等教育学校を併設した小石川高校(文京区)の第20代校長として高校の最後を見届けつつ、並行して小石川中等教育学校の校長を6年間務めた。定年退職後、8年間にわたり成城中学校・高等学校(新宿区)の校長に就任し、男子伝統校を復活させた。

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ライター 柿崎明子

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