中日の立浪和義監督
中日の立浪和義監督

 見慣れない光景に、報道陣の視線はくぎ付けになった。16日に沖縄で行われた中日日本ハムの練習試合だった。日本ハムの打撃練習中に、フリー打撃を終えた清宮幸太郎が新庄監督に付き添われる形で中日・立浪和義監督のところへ。そのまま臨時の打撃教室が行われた。

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 新庄監督は自身のインスタグラムで立浪監督がバットを構えて清宮に指導している写真を投稿。「今日は立浪監督とお互いのチーム作りの話をさせてもらいました 素晴らしいテーマを持って取り組んでて、参考になる話ばかりでした 他球団の監督が他球団の選手を教えるなんて新しい 本当に有難う御座いました」と異例の指導要請に応じてくれた立浪監督へ感謝の思いを綴った。

 一昔前は考えられない光景だった。1990年代にプレーしていた選手はこう振り返る。

「僕らの時代は『相手球団の選手と話をするな』と言われていた時代だった。今みたいに他球団の選手と合同自主トレすることもなかったし、オールスターとか接点がない限り、相手チームの監督と話したことすらない選手がほとんどだった。指導を受けるなんて想像すらできなかったです。でも時代は変わってきている。地上波でプロ野球が放送されない時代になり、野球人口も減っている。野球界を盛り上げるためには清宮は活躍してもらわなければいけないスターです。型破りな新庄監督にしかできない取り組みだと思いますし、快諾した立浪監督も凄いと思います。『他球団の選手に教えるな』と苦言を呈するOBがいるかもしれませんが時代遅れの考え方でしょう」

 今年から就任した立浪監督は、球界内でも「武闘派集団」として名高い星野仙一監督の中日で現役時代にプレーしている。上下関係の厳しさを知る世代で、相手球団の選手と話してはいけないという教育を受けた時期もあっただろう。新監督に就任した今季はその「厳しさ」が話題になったことも。中日の公式YouTubeによると、立浪監督は春季キャンプ初日に選手を集めた挨拶で、「今年からアップの時に私語禁止ね。アップからちゃんとケガしないように自分で責任を持ってやるように。全体の練習をやる時は試合と一緒だからね。へらへら笑いながらやっている選手は外すよ。しっかりと緊張感持って本格的に取り組んでください」と宣言して大きな反響を呼んだ。

 だが、スポーツ紙記者は「立浪監督は理不尽な厳しさを追い求める人ではない」と強調する。

「冗談が好きですし面白い方ですよ。もちろん選手たちに厳しさは求めますが、選手に伝えている内容は当たり前のことです。むしろ昨年までが緩すぎた。清宮への指導を引き受けるなど、中日だけでなくプロ野球界全体を盛り上げたいという気持ちは新庄監督と一緒だと思います」

 球団の垣根を越え、立浪監督から「異例の直接指導」を受けた清宮も期待に応えなければいけない。早実で史上最多の高校通算111本塁打をマークし、ドラフトで高校生最多タイの7球団が競合した長距離砲だが昨年はプロ3年目で初の1軍出場なし。昨オフは新庄監督の減量指令を受け、103キロから94キロに9キロ減量した。打球を遠くへ飛ばす天賦の才は誰もが認めるが、確実性を上げなければ試合に起用してもらえない。新庄監督が就任し、レギュラーが横一線の中で求められるのは結果だ。(安西憲春)