松田翔太の顔が文字でほとんど見えないコインチェック。「タレント事務所が最も嫌がる手法です」(山崎氏)(写真:xpd 制作)
松田翔太の顔が文字でほとんど見えないコインチェック。「タレント事務所が最も嫌がる手法です」(山崎氏)(写真:xpd 制作)

 松田翔太の顔が「暗号資産といえば、コインチェック。」の文字で隠され、ほとんど見えないという「コインチェック」もSNSなどで話題となった。

松田:「暗号資産といえば、コインチェック。」って文字で僕の顔見えないですよね。
女性:隙間から見えると思います。
松田:いやいやいやいや、隙間からって……
女性:ちょっと見えてます。
松田:松田翔太ってわかんないでしょ。
女性:ちょ…っとわかります。
松田:ちょ…っとじゃ、だめでしょ。

 ひたすら文句を言う松田といまいち反省している様子がみえない女性CM監督のやりとりは反響をよんだ。セリフは最初に簡単な流れだけは決めたが、ほとんどはアドリブだったという。

「コインチェックのような新しいサービスの広告って、やたら説明的なC Mが多い。あと見せ方もだいたい似ている。よくあるのが、サラリーマンが出てきて『こんな問題が起こったら、このサービスで解決!』みたいなセリフとワンポーズみたいな。あの見せ方、大嫌いなんですよ(笑)。だから、コインチェックに関しては、今、誰もやっていない見せ方にしたかった。まず決めたのは『暗号資産といえば、コインチェック。』っていう文字をずっと見せておこうということ。さらに、松田翔太さんっていう主演クラスの俳優さんの顔の上に文字をのせるというタレント事務所がいちばん嫌がる手法を選びました。CMってもうテレビで流れることを前提に作ってはいけない。SNSなどで拡散された時などのことも踏まえ、視聴者の目線を奪えるような面白いサムネイルになることも意識しました」

ホットペッパー、アイフル、コインチェックなど、名作CMを手掛けた山崎隆明さん(写真:本人提供)
ホットペッパー、アイフル、コインチェックなど、名作CMを手掛けた山崎隆明さん(写真:本人提供)

 山崎さんがCMを作る上で最も重要と考えていることは何なのか。

「まず、他のCMと見え方が違うもの、を目指します。ポイントとなるのは『違和感』や『異物感』です。昔から広告って嫌われ者ですからみんなちゃんと観てないんです。人間の集中持続時間も年々短くなっているし、もう、観てもらえる前提で作った起承転結ストーリーCMは、よほどうまく作らないと機能しない。いかにCMの序盤で人の目を惹きつけるか、CMが始まった瞬間、他と違う世界観を提示できるか、が肝だと思います。」

 インタビューの最後には「思い通りにいかないからこの仕事は飽きない。できるだけ長くプランナーとしてやっていきたい」と語った山崎さん。そして、次世代のクリエイターに対してもこんなエールを送る。

「私含めて今のクリエイターたちは、どこかで表現のリミッターがかかってしまっている。コンプライアンスが年々厳しくなっている今の時代では、仕方ないかもしれないけど、もう少し自由にやっていいんだよっていうことを自ら示していけたらと思っています。やっぱり自分がほんとうに面白いと思うものを作って、クライアントにも喜んでもらえて広告としても機能する面白さ、この仕事の醍醐味を若い制作者にも味わって欲しいなと思います」

(AERA dot.編集部・岡本直也)