そして、こう続ける。

「マッチングアプリで交際相手を探した方からの同じような相談は近年、増えています。警察に行っても扱えないと言われ、相談に来るケースが大半です」

 望月弁護士によると、出会った当日にいきなりホテルに連れて行かれる。性行為中に写真や動画を撮られたりしても、中には交際が始まったと信じて、その後も会い続けてしまう人がいるのだという。

 まじめな交際という視点に立った場合、客観的にも男性の行為は“不審”に映る気がするが、なぜ拒否できなかったのか。なぜ盲目的に相手を信じてしまうのか。

 この点について望月弁護士は、「現代社会の希薄な人間関係、孤独や寂しさにつけこみ、心の隙間に巧みに入り込んでくるのだと思います。あたかも恋人であるかのふりをし、要求を断ればこの人ともう会えなくなってしまうかもしれないなどという思いを逆手に取り、言いなりにしようとする。とても卑劣です」と話す。

 先の30代の女性も当時について、「彼に嫌われたくなかった。ずっと交際を続けたかったんです」と振り返っていた。

 自業自得、と突き放す考え方もあるかもしれない。「あんな軽い男…」と割り切って、次に進めばいいと思う人もいるかもしれない。

 ただ現実は、心に深く傷を負い苦しんでいる人が少なくない。被害者は女性だけではなく、男性の場合もある。

「被害者の多くは『自分も悪かった』と、自分を責めてさらに苦しんでいますが、悪いのはだました方で、人を信じたことを責めるべきではありません」(望月弁護士)

 増え続ける相談。被害者たちの怒りや辛さに触れてきた望月弁護士は、これという解決法がない現実にもどかしさも感じている。

「多くの人が気軽にマッチングアプリを利用する時代で、止めることはできませんが、身体の関係だけを目的にしている利用者がいること。それによって傷つき苦しんでいる人たちがいるという現実は、知ってほしいと思います。真面目な交際なら、お酒ではなくお茶を飲みながら話してもいいはずですし、初対面で人のいない場所に行く必要もないでしょう。もしマッチングアプリを使うなら、こういう誘いは断る、という基準のようなものをご自分で考えてみてはいかがでしょうか」

 「自分は大丈夫」「彼(彼女)はいい人」。本当にそうだろうか。マッチングアプリで出会い、交際を期待した相手に何かを求められたとき、冷静に判断して距離をとれるかは、その状況に置かれてみないと分からないのかもしれない。

(AERAdot.編集部 國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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