塩原将志さん(Photo  Shunichi Oda)
塩原将志さん(Photo Shunichi Oda)

 画廊はアーティストから作品を預かり、定価で販売する。相手によって売値を変えないが故に、その作品にふさわしい相手を選ぶことができる。つまり、お金があれば買えるわけではないのだ。

「作品を入手するため、コレクターには“この人にこの作品を持ってもらいたい”と思われる努力が必要です」

 日本では「アート作品のコレクション=金持ちの道楽」と考えがちだが、欧米では「社会への還元」だと捉えられている。冒頭のロックフェラー2世の寄贈はその最たるもので、個人の資産が地域の財産になった例だ。塩原さんはいい作品を買うために、コレクションの意図をブックレットにまとめ、画廊やアーティストに説明を重ねている。このような究極の売り手市場では、売値はどんどん上がっていく。

■オークションの価格は「2人」が決める

 そして、もうひとつの購入方法が「オークション」。所有者が作品を手放すときや購入する時に使われる「セカンダリーマーケット」で、ここで扱われている作品は一般商品ならばいわゆる中古品だ。洋服であれ家であれ、多くの中古品は新品より値が下がるが、なぜか逆転する作品もあるのがアートの世界。理由は先と同じで、1点もので希少価値や歴史的価値が付加されているからだからだ。

「オークションで価格が上がるか否かは、最終的に強烈に欲しいと思っている人が2人以上いるかどうか、で決まる。双方が競り続けると落札価格は上がる。オークションの最高落札額は少人数が作った記録で、意外にシンプルなのです」

 画廊は「買う人の姿勢」を見るが、オークションは1円でも高く買う人が選ばれる。昨今はインターネット経由で「ポチ」っと億単位の入札をするコレクターも多いが、塩原さんは適性価格で作品を入手するため、事前に調査を行い、できる限り現場に足を運ぶ。

■1年のうち半分は「アート1000本ノック」

 世界では日々、雨後の筍のように作品が生まれている。塩原さんは業界に入って30年近くたつベテランだが、リアルな情報を掴んでおかないと、コレクターからの信頼は得られない。結果、いまも続けているのが「アート1000本ノック」だ。

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