「合法的な中絶を阻むことで、女性を苦しめるのはやめてほしい。世界基準の適用をしてください」 

 私たちの声を抜きに中絶に関することを決めるべきではない。そういう強い意志のもとに意見交換会は行われた。

 その声は、官僚たちにどのように届いただろう。参加した官僚6人のうち女性はたった1人という残念さは毎度のことだが、法務省の役人が堕胎罪について問われ、こう答えていたことで会場の空気が一変した。

「堕胎罪の保護法益は胎児の生命、身体の保護です。ただちに撤廃は考えていません」

 法務省としては検討すらしないとでもいうような物言いだった。これに対して、塚原さんが声をあげた。

「胎児の定義を教えてください」

 中絶問題にずっと取り組んできた塚原さんだからこそできる質問だったと思う。当然、役人の男性は言葉につまり、焦るように手元の六法全書をパラパラとめくりはじめたが……「正解」が載っているはずもない。そこで塚原さんはこう畳みかけた。

「そういうことを(この社会は)考えてこなかったと思うんです」「中絶薬を使うと、胚の段階で中絶ができるんですよ。さっき、あなたは胎児の身体の保護とおっしゃってましたが、胚に身体ないですよ? どう考えるんですか?」

 決して責めるのではなく、淡々と聞いていたが男性役人はそれには答えず(彼でなくても答えられる人は少ないだろう)、ただ、「胎児の生命の保護法益の観点からただちに撤廃は考えておりません」と無表情に繰り返すのみだった。このやりとりに会場が騒然とし、共産党の倉林明子参院議員がその声を代表するように、

「胎児がいつからとも言えないのはショッキングと受け止められたことは認識してください!」

 とピシャリと言っていた。

 絶対に妊娠しない側が決めた堕胎罪、中絶の方法、中絶の値段に“私たち”は振り回されてきた。そういう人たちほど簡単に「胎児の生命」×「女性」をてんびんにかけながら、胎児の定義すらできない。そのことは分かってはいたけれど、やはりショッキングではある。

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私は知らずに危険な中絶処置を高額で受けていた