Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)
Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)

 イスラエルのニシム・オトマズキン教授によるコラム「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」。今回は、イスラエルで人気の草間彌生について。

【写真】イスラエルで大人気!草間彌生展の様子

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 11月15日から、イスラエルのテルアビブ美術館で、日本のアーティスト、草間彌生(92)による展覧会が始まりました。コロナの流行以来、最大となるこの展覧会は来年4月まで続きます。すでに10万枚以上のチケットが売り切れています。 過去にイスラエルの美術館で、これほどの人が押し寄せたのはいつだったか、思い出すことができません。

 草間彌生の作品を一堂に集めたこの展覧会では、これまでに展示されたことのないものを含む200点以上の作品が見られます。また、彼女のカラフルな水玉作品を展示したミラールームも4つあり、観覧者が写真を撮り大人気のようです。

 草間彌生がこれほど人々を夢中にさせる理由は何なのでしょう? なぜ、イスラエルの人々は日本の現代アートに興味を持っているのでしょうか?

 一つには、多くの中産階級のイスラエル人が日本に興味を持っているということがあります。コロナが発生するまで、日本はイスラエル人観光客のお気に入りの旅先でしたし、テルアビブ―成田間の直行便も開通されようとしていました。イスラエルの若者の多くは日本のアニメや漫画が好きで、日本に対して全般的に良いイメージがあります。また、ホロコースト時代に、ユダヤ難民がヨーロッパから逃れる際に彼らにビザを発行した日本の外交官、杉原千畝の名前は、おそらく全てのイスラエル人に知られています。

 二つ目の理由に、草間彌生という人の生きざま、特に彼女が人生で経験した困難が、彼女の作品に対する大きな共感を生み出しているということがあります。 彼女の特異な生きざまに、多くのイスラエル人が共感を覚えるのです。彼女は幼いころから幻聴や幻覚に苦しんでいます。彼女の作品には無数の水玉が描かれますが、これは彼女が小さい頃から執拗に描いてきたモチーフです。彼女は幻覚や幻聴を描くことでアートの世界に入ったのでした。この有名な水玉は彼女が恐れる幻覚や幻聴から身を守るものだと言われています。大変だった幼少期と人生の困難を克服し、彼女は世界で最も有名な現代アーティストの一人になりました。

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Nissim Otmazgin

Nissim Otmazgin

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授。トルーマン研究所所長を経て、同大学人文学部長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年ヘブライ大学にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に贈られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。2012年、エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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