「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、新型コロナウイルスの水際対策の自主隔離について。

【海外の場合は?】隔離中の検温報告の実際のスマホ画面

ビデオ撮影の待機場所登録の画面。何回体験しても焦ってしまう
ビデオ撮影の待機場所登録の画面。何回体験しても焦ってしまう

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 昼すぎ、JR蒲田駅近くのホテルで自主隔離を続けるKさん(38)のスマホが鳴った。応答というボタンを押すと、ビデオが作動し、Kさんのいる部屋の撮影がはじまる。中央には人の頭部をかたどった線が浮き出る。自動証明写真機で顔写真を撮るときのように顔を合わせ、じっと30秒……。終わると、Kさんは、「フーッ」と息をついた。

「今日はこれで連絡はないだろうか」

 日本に海外から入国した人はいま、それぞれのスマホに、さまざまなアプリを入れなくてはならない。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ水際対策である。

 9月初旬、Kさん勤務先のベトナムから帰国。自宅は福島県。公共の交通機関を利用できないため、東京での14日間の自主隔離を経て家に帰る。

 空港で職員がKさんのスマホにインストールされたのは、位置情報記録の保存設定、COCOAという接触確認アプリ、そして入国者健康居所確認アプリ、MySOS。毎日、Kさんのスマホに連絡を入れてくるのはMySOSである。

 MySOSには3項目がある。現在地報告、健康状態報告、待機場所登録。ビデオ撮影がはじまるのは待機場所登録だ。

 ホテルで自主隔離しているわけだから、部屋から出ないことが原則。つまり待機場所登録で背後に部屋が映しだされ、その場所が申告したホテルならOKということになる。

 厚生労働省によると、本格的にMySOSを使うようになったのは7月15日から。いまは1日2万人から3万3千人ほどの入国者が14日間、このアプリとつきあっている。

 しかしKさんのもとには、隔離経験者などからさまざまな情報が入る。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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