絆を結びたい。絆を結び直したい。自分が断ち切ってしまった絆を。狂おしいほどの後悔。そんな気持ちはやがて「糸」という血鬼術になって、累の能力として顕現する。

<自分のしてしまったことに耐えられなくて たとえ自分が悪いのだとわかっていても 毎日毎日 父と母が恋しくてたまらなかった>(累/5巻・第43話「地獄へ」)

■「家族の絆」が試される戦い

 累は父母の無償の愛を切望し、他の家族をうらやましがる場面もあったが、那田蜘蛛山で戦う鬼殺隊の炭治郎、伊之助、善逸も全員親がいない。炭治郎は無惨によって親兄弟を殺されており、伊之助もあとのエピソードで判明するが親を鬼に殺害されている。善逸は捨て子で親の顔さえ覚えていない。

 しかし、彼らはそれぞれが生きてきた中で感じた「愛情の痕跡」を胸にかき集めながら戦う。伊之助は敵に首をしめられた瞬間、死の直前に見るといわれる「走馬灯」の中で、赤ん坊の頃に別れた母の涙の姿を思い出す。さらに、自分を心から心配してくれる仲間の姿を、温かいご飯でもてなしてくれた優しい鬼殺隊支援者の老女の姿を。善逸は、親代わりの師匠が根気強く自分を励ましてくれた言葉を思い返した。

 そして、炭治郎は父が死ぬ直前に教えてくれた大切な「呼吸」と「神楽(かぐら)」から、これまでの「水の呼吸」に代わる新しい技を放つことができた。亡き母は昏倒する禰豆子を覚醒させて、炭治郎の元に向かわせた。炭治郎と禰豆子は失った家族との大切な思い出を胸に、この厳しい戦況を打破することができたのだ。累の「過去」とは対照的な描かれ方だ。

■たとえ大切な人を失っても

 累は炭治郎と禰豆子の“本物の絆”を前に、自分の過ちに気づいた。肉体が消滅する瞬間に、累の悲しみを知った炭治郎に手を添えられ、累は人の温かさを思い出した。父と母の姿が脳裏に浮かぶ。

<ごめんなさい 全部全部 僕が悪かったんだ どうか許してほしい>(累/5巻・第43話「地獄へ」)

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