少年鬼の「累」(画像はコミックス43話の表紙より)
少年鬼の「累」(画像はコミックス43話の表紙より)

 アニメ第2期「遊郭編」の放送開始が正式に発表されたが、これに先がけて放送される「竈門炭治郎立志編 特別編集版」も注目を集めている。第1期アニメ「立志編」はどのエピソードも人気が高いが、炭治郎・善逸・伊之助ら「かまぼこ隊」の成長が著しかった那田蜘蛛山編の第19話「ヒノカミ」は「神回」とまでいわれた。キャラクターの人気投票でも上位にくる少年鬼「累」にまつわる物語にもファンが多い。ここでは、累が求めた「家族の姿」について、改めて考えてみたい。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■那田蜘蛛山での司令

 主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)と鬼殺隊同期の嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)、我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)は、司令によって那田蜘蛛山(なたぐもやま)の鬼討伐任務にあたることになった。鬼の禰豆子(ねずこ)も兄・炭治郎が守ってくれている箱の中に背負われて、この山に向かう。

 那田蜘蛛山には、炭治郎たちが到着する前に、何人もの隊士が向かっていたが、被害状況は予想以上に大きかった。敵は鬼の総領・鬼舞辻無惨の直属の配下であり、実力者「十二鬼月(じゅうにきづき)」の一員だったのだ。

■少年鬼の累とニセモノの“家族”

鬼滅の刃』という作品において、鬼は集団行動を取ることを好まないとされている。無惨の司令に応じて、あるいはなんらかの制約や利害関係が生じる場合にのみ、共に活動することがある。鬼同士の仲が良い事例は極めてめずらしい。しかし、この那田蜘蛛山では、「下弦の伍」の少年鬼・累(るい)を筆頭に、“累の家族”という設定で複数の鬼が一緒になって残虐行為をはたらいていた。

 “累の家族”として登場する鬼は、父役、母役、姉役、兄役がいる。それぞれ「クモ」に関連する姿や、「クモの糸」をほうふつとさせる血鬼術(けっきじゅつ ※鬼が使用する能力)を使う特徴がある。母と姉は累に似せた姿に変えさせられており、血縁関係があるかのごとく外見的特徴をそろえている。一方で、父と兄は本物の「クモ」と良く似ており、疑似家族の累を守ろうとする“強さ”が強調されている。

<僕たちは家族5人で幸せに暮らすんだ 僕たちの絆は 誰にも切れない>(累/4巻・第29話「那田蜘蛛山」)

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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累の願いは「健康になること」だけ