欧州で進む電気自動車(EV)シフト。その先鞭をつけたのはテスラのCEOイーロン・マスクだった。『TECHNOKING イーロン・マスク──奇跡を呼び込む光速経営』の著者、竹内一正氏が欧州のEVシフトの現状を分析する。

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■すべては15年前のマスタープランが始まりだった

 自動車業界で起きた2020年のトピックのひとつが、EVが売れる市場として、欧州が最大市場の中国に迫る規模になったことだった。

 そして、2021年6月の欧州で、テスラのEV「モデル3」は、全車種カテゴリーで首位のフォルクスワーゲン「ゴルフ」に肉薄する販売台数を記録し、EVの急伸ぶりを見せつけた。

 価格約3万5000ドルのモデル3の原点は、テスラのCEOイーロン・マスクが2006年に公表した「マスタープラン」に遡る。

 今から15年前に計画したマスタープランは次の4つのステップから成っていた。

(1)スポーツカーを作る
(2)その売上で手頃な価格のクルマを作る
(3)さらにその売上げで、もっと手頃な価格のクルマを作る
(4)これらを実行しながら、ゼロエミッションの発電オプションを提供する

(1)「スポーツカーを作る」は2008年に出荷を開始した10万ドル(約1100万円)の「ロードスター」であり、(2)「その売上で手頃な価格のクルマを作る」が2012年のEVセダン「モデルS」で、価格帯は7万5000ドル程度だった。(3)「さらにその売上げで、もっと手頃な価格のクルマを作る」が2017年に販売を開始した3万5000ドルの「モデル3」となる。これほど長期的な目標を掲げて、達成している企業は他にない。

 そのEVの基幹部品はバッテリーであり、モデル3で使うリチウムイオン電池は米ネバダ州にある巨大工場ギガファクトリー(通称「ギガネバダ」)と、中国上海にある「ギガ上海」で生産している。さらにドイツのベルリン郊外にテスラとして欧州で初のギガファクトリー「ギガベルリン」が建設中で、1万2000人の従業員と年間最大50万台の車両を生産する計画を聞いた独メルケル首相は大喜びだった。

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欧州でのギガファクトリー建設ラッシュの裏の事情