「観客がいると余計な音がノイズになり、判断に影響を与えることがあるので、一般論でいうとノイズが増えるとフライングは増える可能性があるでしょう。逆に、静かだと、神経系の感度が高くなりすぎ、内部ノイズが優勢となって、フライングが増える可能性もある。ようはどちらの予想もできます。そもそも、有観客であろうと、スタートの瞬間は静粛になりますからね。どうなるか興味深いですね」(柏野さん)

 さらに柏野さんは、ノイズが判断を狂わせるかどうかという観点から、陸上ではないが、一つ示唆に富む話をしてくれた。

「桑田真澄さんは、野球だけでなくゴルフもプロ級の腕前ですが、ゴルフのクワイエットボードを『自分からするとあれは不思議ですね~』とおっしゃっていました。野球はヤジが飛んでいようが、選手は投げられます。観客がうるさいからコントロールが狂ったという言い訳はありませんよね。ようは、慣れだと思います。常に観客が騒がしい場所で行う競技の選手からすると、静かな環境では違和感を覚える。逆に、静かな競技だと、うるさいのはありえない」(柏野さん)

 また、東京五輪開催前には、観客の声援が選手を奮い立たせるなど、有観客を求める声もあった。この点について柏野さんは、「有観客と無観客で選手の自律神経系や内分泌系にどんな変化を与えて結果に影響するか」については、データを集めて詳しく研究する意義があるという。

 コロナ禍での異例の開催になった東京五輪。無観客開催がどのようにパフォーマンスに影響したかのか。今後の検証を待ちたい。(AERA dot.編集部 岩下明日香)