顔面蒼白という風情の吉田は、一日おいて始まるチームに向けて言葉を絞り出している。

「チームでは、もうちょっといい結果になるように頑張ります」

 地元開催の五輪で必死に泳いだ、乾・吉田組の戦いは終わった。

 井村コーチと共に日本の黄金期を作り上げた金子正子元日本水泳連盟シンクロ委員長は、「日本はよくやった」と二人の健闘を讃えている。その一方、シンクロナイズドスイミングからアーティスティックスイミングに名称が変わって迎えた東京五輪で「求められている芸術・パワーは、小手先のものじゃない」と感じたという。

「精神力・筋力を鍛えて、それを駆使してパフォーマンスをするのがスポーツじゃないですか。シンクロナイズドスイミングというのは、人・音楽との同調性が主な重点でしたよね。だから昔はこんなにダイナミックな動きじゃなくて、みんなが綺麗に繊細にそろっていたら大拍手だったじゃないですか。アーティスティックスイミングに変わり、それではもう飽き足りなくなって、このスポーツを発展させるために出てきたのが、もっと芸術性を前面に打ち出す方向性だと思うんですね。各国の皆さんが、名前が変わった意味をすごく考え、人間が体を動かす上で最高のレベルを目指した結果が、ここ何年かの間の発展じゃないかなと」

 進化する世界で、日本の戦いは続く。乾は、気丈に前を向いた。

「まだチームもありますので、しっかり切り替えていきたいと思います」

 6日から始まるチーム種目で、日本代表には、積んできた厳しい練習を自信に変える堂々とした泳ぎを期待したい。(文・沢田聡子)

●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」

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