そんな中。僕が昔から仲のいい中目黒の和食屋の板前さんAさんがいます。自分で店を経営している板前さんでとても腕がよく人気。決して安いわけじゃないけど、新鮮なお刺身とさまざまな魚介料理を食べさせてくれる最高のお店です。

 Aさんとは20年以上のお付き合いになりますが、Aさん、今のお店を開店した直後にバイクで事故にあい、いきなり休業しなければいけない状態に。その時の怪我がひどくて、しばらく足が思うように動かなくなったりして。これまでたくさんのピンチを乗り越えてきた。

 去年、緊急事態宣言の時は自慢の料理を出来る限りテイクアウトスタイルにして営業してました。僕も何度も買いに行きました。今まで来てくれていたお客さんが自宅でも食べられるようなスタイルにしていった。でも、正直、テイクアウトを始めたとしても、以前のような売り上げになることはないわけです。

 そして、今年になりまたもやの緊急事態宣言。するとAさんは、「このまま守りの営業ばかりしていてもだめだ」と思ったみたいで、僕にいきなりLINEをくれました。「ランチを始めます」と。そして「昼は思い切ってラーメン屋にします」と。和食屋さんだからできるラーメンを開発し、ランチ時はなんとラーメン屋の形態で営業するという思い切った施策を打ち出しました。和食屋さんらしい、魚介だしの体に優しくおいしいラーメン。

 その思い切った施策がうまくいったのでしょう。4月からの緊急事態宣言中は、ランチだけじゃなく、ほぼこのラーメンを中心に営業をするということに切り替えました。

 営業時間が短くお酒も出せない中、基本、ラーメンをメインにすれば、いつもよりフードロスも少ない。そしてなにより、とにかく評判がいい。

 和食屋さんをラーメン屋さんにするという発想。きっとここで増えたお客さんは、また和食屋さんに戻った時に、来るでしょう。

 Aさん、以前、テイクアウトスタイルにした時には、「今までのお客さん」をターゲットにして、何とか少しでも売上を上げようと考えていたと思うのです。だけど、「今までのお客さん」を頼りにするのではなく、新規の顧客を取りに行くことを考えたのだと思います。

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給付金だけを頼りに生き延びようとしない