金福童さんの葬儀の日。韓国ソウル市庁に大きく金福童さんの写真が張り出され、多くの市民が死を悼んだ(提供)
金福童さんの葬儀の日。韓国ソウル市庁に大きく金福童さんの写真が張り出され、多くの市民が死を悼んだ(提供)
タイトルは「14才の少女が連行される日」。金福童さんが描かれた(提供)
タイトルは「14才の少女が連行される日」。金福童さんが描かれた(提供)
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「慰安婦」という表現について。当事者や支援者たちが、この言葉を使うのには理由があるという。

【写真】少女像は何を象徴しているのか?

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 これからは“従軍慰安婦”ではなく“慰安婦”と言う。

 そのような内容のものが、4月27日に閣議決定されたという。 「従軍慰安婦」という言葉だと誤解を招く可能性がある、と自民党の下村博文政調会長が説明していたが、軍の関与が強調される言葉を消したかったのだろう。

 安倍さん(安倍晋三前首相)のころから、政治家の言い換え問題は指摘されてきた。徴用工を朝鮮半島出身の労働者と呼んだり、オスプレイの墜落を不時着と言い張ったり、カジノのことをIRと呼んだりとか。言い換えることで、意味が薄れ(なくなり)、ツルツルのビニールが被せられ引っかかりが消える。「徴用工集団訴訟」という事件も、「朝鮮半島出身の労働者の皆さんの訴え」となったとたん、時代背景も暴力性も消えるというものだ。

 とはいえ、これから「慰安婦」と呼びましょう!問題。さて、困ってしまった。たぶん、「慰安婦」運動に関わってきた人たちはみんな困っている。なぜなら「慰安婦」にされた女性たちも、彼女たちを支援してきた人たちもみな、「従軍慰安婦」とは言わず、「慰安婦」を使ってきたから。自民党的な言い換えをしてるわけじゃないのに、結果同じになってしまった。

「従軍慰安婦」という言葉を、当事者や支援者たちが使わないのは、従軍カメラマンとか従軍記者など、自ら志願して軍に従ったとも捉えられる「従軍」という言葉に問題を感じるからだ。そもそも「従軍慰安婦」という言葉自体が戦後につくられたもので、女性たちにはなじみのない言葉だったというのもある。そのため、カギ括弧の「慰安婦」を使うようになった。カギ括弧をつけるのは、「慰安」という言葉そのものに含まれる、性暴力が性暴力だと理解されていない暴力性を逃さないため。男性から見たら生死のはざまで味わう一時の慰安、でもこちら側からしてみれば地獄。地獄を「慰安所」と名づけられる恐怖も含めて、「慰安婦」はカギ括弧で語られる言葉として定着してきたのだ。

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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相手の目を見つめて「私は人権活動家です」