ミネルバの授業はすべて、1クラス20人以下で行われる。教員は自分の学生全員の名前を覚えているし、オフィスアワーがあるから、オンライン上で1対1の交流をたくさんしている。

 一方で、ミネルバの学部生は4年間で世界7都市を移動し、各地の寮で共同生活を送る。コロナ禍では、学生の安全と各国の規制を考慮しながら、仕組みの維持に尽力している。ミネルバでは米国からの学生はわずか15%で、85%がその他約60カ国の出身だ。非常に多様な構成の学生たちがキャンパスでなく街に住み、新しい文化や視点を体験している。

 授業で学んだことを様々な状況に応用する力をつけるため、学生は「市民パートナー」と呼ばれるNPOや行政機関が抱える課題解決にも取り組む。

 わたしたちがデザインした最高のオンライン教育と体験型教育の組み合わせが、ミネルバを世界一の大学にしている。

■教室でできないことをどうすればオンラインでできるか

 パンデミックでどの大学もオンライン授業を始めた。この変化はほんの少し良いことだ。「ほんの少し」にとどまるのは、彼らはふだん教室でやっていたことをオンラインに移しただけだからだ。

 たとえば講義を事前に録画してオンラインで配信したことで、学生は巻き戻し、聞き返し、確実に理解できるようになった。少人数のゼミなら、教員は画面上で全員と向き合うことができ、学生とのかかわりは容易になった。こうして人々は教室での教育の欠点に気づき始めた。

 だが、教える内容や方法を根本的には変えていない。われわれが問わねばならないのは「どうすれば教室でやっていたことをオンラインでできるか」ではない。「どうすれば教室でできないことを、オンラインでできるか」だ。オンライン教育が本来のインパクトを持つには、このアプローチが必要だ。

 わたしは2005年以来、20回以上日本を訪れているが、日本の教育制度がいささか危機にあるのは不思議ではない。日本発の優れたイノベーションを考えると、それはつねに伝統的な教育制度の外にあった。人とは違うやり方をしてきた挑戦者たちが導いてきた。日本の教育制度はそのような創造的な機会を育んでいない。

 もし日本で高校以降の教育が変わり、暗記やテスト、教科中心の学習ではなく、実践的な技能や応用可能な知識に力を入れたら、どれだけの可能性が日本社会に解き放たれるだろう。日本に必要なのは、これまでの功績を先細りさせるのではなく、加速させる教育だ。それができるかどうかが、今後のカギとなる。

■Ben Nelson(ベン・ネルソン)
1975年生まれ。米ペンシルベニア大学ウォートン校卒。オンライン写真印刷サービス「Snapfish」CEOを経て、教育事業会社ミネルバプロジェクトを設立。14年ミネルバ大学開校。合格率約2%の超難関校に。

(構成/萩原英子)

※『大学ランキング2022』から