そうそう、曙が相撲から離れると騒ぎになったときに、彼をプロレスに勧誘したこともあったんだ。曙も乗り気で「天龍さん、俺はプロレスラーになるのが子どもの頃からの夢だったんです」と言うんだ。考えてみればハワイでもプロレスのテレビ放送もあるし、WWFの試合だってある。日本に行って相撲取りになろうと思うより、プロレスラーになろうと思う方が自然だよ。曙の話を聞いて俺も納得したもんだ。

 それから曙はK-1 に行ったけど、俺たちに横綱をしっかり迎え入れるだけの資金力があったら、プロレスデビューの方が先だったかもね。あの当時のK-1は絶好調だったからなぁ。

 さて、最近の俺も新生活が始まった。ちょっとニュースにもなったようだけど、先日運転免許を返納したんだ。みなさん、俺の免許返納を好意的にとってくれているけど、そんなに大したことじゃないと思っている。俺も70歳を過ぎて、そろそろ返納する時期だなと思っていたし、娘夫婦と同居もあって車を運転することもなくなった。それに、現役時代にサッカーボールキックのし過ぎで足首の可動域が狭くなってしまってね。知ってるかな? 人の頭を蹴り続けると足首が固まるんだよ(笑)。それで、ペダルを踏みかえる動作に支障が出始めて何度か怖い思いをしたこともあったし、自分で大きな事故を起こす前に返納することにしたんだ。

 免許証だけ持っていて運転しなればいいという考えもあるだろうが、俺の性格からして中途半端は嫌だから潔く返納したよ。返納自体も近くの警察署で簡単な手続きだけで終わったし、後日、免許に代わる身分証明書も発行してくれるんだ。そのときには、生まれて初めて街角にある証明写真ボックスで撮影したんだよ。狭くて驚いたが、我ながらいい写真が撮れたと満足している! 

 アメリカ修行時代に何百マイルも運転したし、好きな車にも乗れたし、車に関してはもう十分、腹いっぱいだ。

 それからもう一つ大きなことが「天龍プロジェクト」の再始動だ。4月から毎月プロレスの興行をしていくことになる。きっかけは昨今のコロナ禍だ。この一年間プロレスを見たり、選手に話を聞いたりしていると、やっぱり試合の数が減っているのが苦しいようだ。プロレスラーの収入は1試合いくらだから、試合をしてナンボ。俺なりに考えて、試合をする会場が増えればその分食いぶちを稼げるし、プロレス以外のことをやって稼がなきゃいけいなレスラーも少しは潤うんじゃないかと思ったんだ。

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解説者ほどオイシイ商売はない