芸人のYouTube発で普遍的な青春映画が誕生したことは異例だが、実はニューヨークとそのチームがこの傑作を生んだことについて、お笑いファンや芸人の間では納得の声が大きい。彼らは東京吉本の若手芸人がしのぎを削る渋谷のヨシモト∞(無限大)ホールのライブで史上最多のMC役を担当してきた。コンビのYouTubeでの企画も後輩芸人に兄貴分として接するものが多く、実際にこのチャンネルから人気を拡大した若手芸人は多い。2020年3月から新型コロナウイルスの影響で吉本興業の全劇場が無観客になってからは、日替わりで芸人を呼び長時間トークする配信を毎日続けた。ゲストのトークを引き出す2人の技術は若手随一の経験値に裏打ちされている。

 ニューヨークというコンビの形容には「毒」という言葉が頻用されてきた。確かに賞レース決勝で披露されたネタは題材だけ見ても「マッチングアプリのラブソング」「自傷的な結婚式の余興」「任侠の些細なプライド」「軽犯罪」などいずれもブラック気味だが、その根底にある斜めの目線は人間愛と表裏一体だ。ツッコミの屋敷氏は無名の若手のYouTubeやラジオにまで幅広く精通しているだけでなく、恋愛リアリティー番組中毒であることも公言している。コンビ間の話題によく上るのも「ザ・ノンフィクション」や2000年代初頭の「マネーの虎」などのリアル志向の番組群だ。ちょっとだけ異常な人間を日常から切り取り、ボケの嶋佐氏が憑依型演技で誇張するのが彼らのスタイル。インタビュー内容は真実なのに、尋問のコントのようにも見える本作は彼らの真骨頂だ。

 毒があるのに兄貴肌、そんな彼らに子分役はあまり似合わない。ゴールデン番組での露出が増えた彼らについてRG氏は「『ちょっと待ってくださいよ~』はやらなくていい」と指摘する。MCや先輩に可愛がられるために求められるバラエティー的振る舞いについてだ。

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コロナ禍ゆえの名作