指揮官は久保を2試合連続ベンチスタートとしたソシエダ戦後、「従来のやり方に戻した。2人のせいではないが、守備のレベルが下がったからだ」と説明している。そして、前述のバレンシア戦での勝利。糸口をつかんだ指揮官にとって、残留争いに巻き込まれる状況で新たなチャレンジをするほどの余裕はない。現地記者によれば、ボルダラスにとって残留は必須条件であり、達成できなければ解任は確実だそうだ。狭い場所で前を向き、周りと連動しながらフィニッシュに絡むのが得意な久保にとって、サイドに張った状態から独力で突破するプレーは難しい。この19歳は運にも見放され、再びベンチが定位置となりつつある。

 では、再び新天地を探すのか? ルール上、同一シーズンに2クラブ以上でプレーすることは認められていない。そもそも選手登録期間は終わっている。残り13試合をヘタフェで戦うことは決定事項だ。過去に何度もそのスタイルを批判されてきたボルダラスだが、ヘタフェでの4年半の指揮でブレることはなかった。つまり、久保は“武闘派”に回帰したチームの中で居場所を探さなければならない。フィジカル重視で常に体を張ることが求められる戦術に適応しなければならない。エメリ、ボルダラスと立て続けに指摘された守備面での課題を克服しなければならないのだ。

 とはいえ、本人もシーズン途中で所属先を変えるリスクを考えていたはずであり、ボルダラスのチームも知っていたはずだ。そして、やることははっきりした。というより、もう他に道はなくなった。いきなり身長が20cmも伸びるはずはないし、いきなり鋼の肉体が手に入るわけでもない。まずは逆サイドに位置するマルク・ククレジャの守備強度・理解度の水準に追いつくことが必要不可欠。それがスタートラインだ。その上で、久保が獲得された意味、つまりゴールを生み出すプレーを続けていかなければならない。

 冒頭のアトレティコ戦直後、久保はインタビューでこう口にしていた。「結果が出なければ、(個人の活躍も)そこまで意味のあることではない」と。

 その才能に疑いの余地はない。過去2シーズンで何度も示してきたし、日本人が誰も到達していない高みに立つ可能性を示してきた。だからこそジネディーヌ・ジダンが惚れ込み、来季レアル・マドリートップチームに合流させることを画策している。そのためには、あのまばゆい輝きを取り戻さなければならない。久保にとって、プロデビュー後最もタフなシーズンだが、残された期間は3カ月。19歳の若武者が描く軌跡に目が離せない。(文・三上凌平)