言った側は言うだけだからいいけど、言われた側は、「言われたポイント」がたまっているんですよね。それに気づけない。小さな怒りのポイントカードが少しずつたまっているのに。

 で、先日、父の三回忌があり、千葉の実家に帰った。もちろんコロナ対策をして、法事を済ませた。その帰り、せっかくだからと「マザー牧場」に寄った。現在、マザー牧場はコロナ対策としてドライブスルー形式で楽しめる。車から降りずに、大きな牧場を走って行き、窓から色んな動物を見ることが出来るのだ。帰り道だし、車から降りないわけだし、思い出を一つ作って帰ろうと。

 だが、マザー牧場に車で入ってすぐ。ちょっとしたことで妻と言い合いになった。本当にしょうもないことなのだが、コース終盤に車を降りて楽しめる場所があるのだが、その場所について、妻が僕に説明しているのに、僕は「違うよ」と強めに否定して、言い返す。結局、僕と妻が言ってることは同じなのだが、妻の言ってることを僕がついつい否定してしまうのだ。

 すると、そんな僕に妻がぶちぎれた。「なんだよ、さっきから、違う、違うって。こっちの言ってることに聞く耳もてよーーーー」と。そしてそのあとの言葉がすごかった。

「お前なんか森喜朗と一緒だよ―――――――――――――!」

 そして「あいつと同じで、聞く耳もたねえじゃねえかよ!同じだよーーーー」。その言葉を言われて、怒りを通り越して悲しくなった。

 だって、だって、「森喜朗」って言われるんですよ。失言で世の中に叩かれている森喜朗会長ですよ。自分はニュースを見て「なんで、こんなこと言っちゃうのかな~」って思ってたのに、気づいたら自分がそっち側にいたんです。

 自分も一緒だったってことに気づいて、悲しくなった。

 言葉のパンチ力はすごすぎて、そのあと2時間ほど無言が続き……。「撤回」は出来ないので、反省しました。

 全国の旦那様、そしておじさま方。もしかしたら自分も同じ側に立っているかもしれない。気を付けましょう。

 妻よ、気づかせてくれてありがとう。夫を辞任はしません。

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。バブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」の原作を担当し、毎週金曜に自身のインスタグラムで公開中。主演:今田耕司×作・演出:鈴木おさむのタッグで送る舞台シリーズ第7弾『てれびのおばけ』が4月14日(水)~4月18日(日) 下北沢・本多劇場で上演。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が2/19発売!

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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