全国津々浦々に30万人近い人員を配する警察組織内で、警備・公安部門は長く絶大な力を有してきました。かつては「反共」「防共」を最大のアイデンティティーとして主に共産党や新左翼、そのシンパをターゲットにした監視・取り締まり活動を行ってきましたが、90年前後に冷戦体制が終わり、国内では95年にオウム真理教事件などが起きると、公安警察の存在意義が疑問視されるようになった。

 その前後から警備・公安警察は「テロ対策」などに活動の重点を移すとともに、もっと幅広い政治動向の収集にあたるよう舵を切ってきたフシがあります。マスコミなどとも積極的に接触し、そこから情報を吸い上げたり、逆に情報を流したりするようになった。内調の仕事もその延長線上にあります。

 ただ、内調にさほどの調査能力はありません。強大なのは、やはり全国津々浦々に人員を擁する警察のネットワークです。たとえば杉田官房副長官が配下の警備・公安警察に「○○を調べられないか」と言えば、そのネットワークを動かすことができる。そこが元警察官僚の力の源泉です。これほどの力を有しているからこそ、戦後の警察組織は政治と一定の距離を置くことを原則とし、これも一応の暗黙知だったはずですが、現在は完全に官邸と一体化してしまっている。非常に危ういことです。

――一方で、かつての権力者の落日も目の当たりにしました。「桜を見る会」問題では、前日の夕食会の経費を補てんしていたとして、安倍前首相の公設秘書が政治資金規制法違反で略式起訴されました。安倍氏も検察から聴取され、国会でも追及を受けました。元農水相の吉川貴盛元衆院議員も大手鶏卵生産会社から現金を受け取った疑惑があり、表向きは健康状態を理由にして、議員辞職しました。吉川氏は二階派です。これらの不祥事は菅政権にもダメージとなると思われます。

青木:野党は来年の通常国会でも安倍氏を追及すると訴えていて、「秘書がやったこと」「私は知らなかった」という安倍氏の主張を額面どおりに受けとめている人は皆無に近いでしょう。また、年明けには吉川氏に対する検察捜査も本格化していきます。新型コロナの感染拡大にも歯止めがかからないなか、党内基盤が弱い菅政権が安泰とは思えませんし、安泰であるべきだとも思いませんが、野党が現在のような体たらくでは、明るい政治展望を描けないのも事実です。残念ですが、この国の政治状況は来年も暗いというしかありません。(構成=AERAdot.編集部・作田裕史)