ジャーナリストの青木理氏(C)朝日新聞社
ジャーナリストの青木理氏(C)朝日新聞社

 7年8カ月にわたる安倍政権が終わり、今年9月、菅義偉首相を戴いた菅政権が誕生した。だが、政権発足時に65%あった支持率は、わずか3カ月で39%まで下落(朝日新聞の世論調査)。GoToトラベル停止の判断の遅れなど、政府のコロナ対応に関する不満は日ごと高まっている。だが、それだけではない。菅首相をはじめ、政権幹部たちの「権力」に対する姿勢も疑問視されている。元共同通信記者で警備・公安担当などを務めたジャーナリストの青木理氏は「このままでは日本は警察国家になる」と警鐘を鳴らす。

【写真】安倍政権の「番人」と言われながら失脚した高級官僚はこの人

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――菅政権の支持率が急落しています。最初のつまずきは、10月に日本学術会議の会員6人の任命を拒否した「学術会議問題」が発覚したことだと思います。ただ、この問題は当時支持率には影響しておらず、菅首相は今でも「問題ない」と強気の姿勢を貫いています。

青木:学術会議の任命拒否は果たして「つまずき」でしょうか。安倍政権時代からの話ですが、内閣法制局長官や日銀総裁、果てはNHK会長などに至るまで、戦後の歴代政権がかろうじて自制してきた人事権を放埒に行使し、これまで積みあげてきた暗黙知ともいうべき矜持をいとも簡単に破壊してきました。安倍前首相と同様、菅首相も権力行使への畏れや謙抑性が著しく欠如した政治家です。あらためて指摘するまでもなく、前政権の官房長官として各種の人事を差配してきたのが菅氏ですから。

――6人の任命拒否には、杉田和博官房副長官が深く関与しているとされ、それを疑わせる資料も表沙汰になりました。

青木:杉田氏は、各省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」のトップも兼務しています。これも安倍政権時代から、官房長官だった菅首相と一体となって官僚の人事を動かしてきたわけですが、学術会議の任命拒否も菅首相と杉田氏の主導による典型的な「暗黙知の破壊行為」です。

 しかも政権はなぜこの6人を排除したのか。杉田氏は警察官僚出身で、ほぼ一貫して警備・公安畑を歩んできました。「国家にとって脅威」だと彼らが捉える組織、人物を監視し、取り締まりの対象としてきたわけです。それは必ずしも「国家」ではなく「時の政府」や「警察」にとっての「脅威」だったりもして、今回も6人がなんらかの「脅威」と捉えたのでしょう。巷間言われるように、安保法制や共謀罪、特定秘密保護法に異を唱えた学者を狙い打ちしたのかもしれません。

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菅首相は権力行使を「快感」