ほかにも相撲取りは「四つ足の動物は手をつくことを連想させるからゲンを担いで食べない」と言われるけど、二所ノ関部屋では豚肉をよく食べていたよ。「女将さん、四つ足の動物はゲンが悪いんじゃないの?」って言っても、「安いからいいじゃないの!」って(笑)。

 そんな俺でもプロレス時代に唯一していたゲン担ぎは、リングシューズを左足から履くこと。1990年代後半か2000年頃にケンドー・カシンが「天龍さん、運は右から入って左から抜けるんです。だからリングシューズを左から履いて、運をここで止めておくといいらしいですよ」と言うから、「へえ、なるほど」と思ってそれからするようになった(笑)。

 俺のゲン担ぎはそれくらいのもんで、俺よりも女房の方が気にかけてくれたね。ここ一番の試合があるときは火打石で送り出してくれたし、十数回の引っ越しも“俺だけにとって”よい方角にある家を探したりしてね。その甲斐あって、こうして無事にリングを降りられたことは運が良かったと思うよ。いろんなおネエちゃんと付き合ったけど、そこまでしてくれる今の女房と出会えたということは“女性運”もよかったんだな! これもちゃんと書いておいてくれよ!(笑)。

 実際に家庭を持って思うんだけど、女房との結婚に踏み切ってなかったら、手元にある金は全部使い切っていただろうし、ひどいことになって今のような天龍源一郎になっていなかっただろう。そう思うとゾッとするよ。女房と結婚したことで人との付き合い方や目的を持って生きることを学んだし、人生やプロレスに大きな影響を及ぼして運命が変わったとも思っている。

 当時、馬場さんに結婚することを報告したら、すぐに「ファイトマネーを上げてやる」と言ってくれてね。俺の個人的な結婚でもちゃんと気に留めてくれて、気遣いをしてくれたことが嬉しかったね。相撲では突っ張って叩き込むしかできなかったけど、女房に対しては怒涛の寄り切りで押し出して結婚を決めた感じだね! あとのときばかりは自分の相撲が変わったよ(笑)。

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結婚に踏み出せない男は俺の口説き文句を使ってもいいぞ!