異臭を含む大気を採取する機器(c)朝日新聞社
異臭を含む大気を採取する機器(c)朝日新聞社

 6月から三浦半島で相次いで通報のあった異臭騒ぎ。横浜市内でも「ガスのような臭いがする」「ゴムが焼けた臭いがした」との119番通報が相次ぎ、原因は何か、発生源はどこなのかと関心が高まっています。そこで、現時点で考えられる原因などについて、化学の知見から、徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)に説明してもらいました。

【現場写真】異臭騒ぎで消防車が出動した付近

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■7~14倍の「ガソリン」などに含まれる化合物

 異臭がした大気には、一体どんな化学物質が含まれていたのでしょうか。相次ぐ異臭騒ぎを受けて、神奈川県環境科学センターや横浜市環境科学研究所が、横須賀市消防庁舎にて採取された異臭大気を分析しました。ガスクロマトグラフ質量分析計(混合物を分離し、それぞれの分子量を測定する機器)を用いて分析したところ、ガソリンなどの蒸発ガスに含まれる「イソペンタン」、「ペンタン」、「ブタン」が、異臭が感じられなくなった空気と比較して7~14倍の濃度で、またエチレンとアセチレンも2倍以上で検出されたとのことです。

 神奈川県の記者発表資料(16日発表)によれば、「異臭が感じられた空気:異臭が感じられなくなった空気中のイソペンタン、ペンタン、ブタンの濃度」は次のとおりでした。単位はppbv(体積1m3中に1mm3の気体が存在する状態を1ppbv、10憶分の1を指す)。イソペンタン(3.2:0.45)、ペンタン(4.2:0.39)、ブタン(7.8:0.55)。

 これらの化合物はすべて炭素と水素からできている炭化水素と呼ばれる有機化合物で、いわゆる燃料です。空気中の濃度が高かったブタン、ペンタン、イソペンタンは、炭素の数が4個と5個の炭化水素、ブタン、ペンタンは炭素が直線につながったもの、イソペンタンは、ペンタンの構造異性体(分子量が同じでも構造が異なるもの)で枝分かれしたものです。

 ガソリンは、原油を沸点の違いによって分離することで得られ、常温において無色透明の液体で、揮発性が高く臭気を放ちます。成分は炭素数4~10の炭化水素の混合物で、ペンタンやイソペンタンはいわばガソリンそのものと言ってもいいでしょう。これらは、沸点が常温から体温の範囲にあることから、遅効性の発泡剤として、たとえばシェービングフォームや発泡式冷却スプレーなどに利用されています。また、フロンガス(オゾン層破壊物質)に代わって、発泡スチロール(高分子化合物のポリスチレンを発泡させたもの、スーパーの総菜トレイ、トロ箱など)を製造するときの発泡剤として利用されたり、接着剤や印刷用のインキなどに使用されたりしています。

 また、ブタンは、卓上ガス缶やライターなどに、エチレンはポリエチレンの原料などに、アセチレンは、金属を溶接するバーナーの燃料などに、それぞれ使われています。

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