■1カ月間、友人にも言えなかった


 
 1000g未満で生まれた赤ちゃんは超低出生体重児と呼ばれる。日本の新生児医療は世界トップレベルで、現在はその約9割が救命されているという。2019年には国内で生まれた出生体重258gの赤ちゃんが、元気に退院した男児としては世界最小であったと話題にもなっている。

 だが、超低出生体重児の多くは早産で臓器の構造や機能の成熟が不十分なため、高度な医療ケアが必要になる。重い後遺症が残ったり、成長過程で病気や障がいが見つかったりすることも、少なくない。

「仲のよい友達にも出産したことを言えませんでした。1カ月して、手術をひとつ乗り越えて、生きていてくれるのかなと思えるようになった段階でやっと伝えられました」

 田尾さんは出産の翌日からほぼ毎日わが子にカメラを向けたが、はじめのうちは撮影した画像をあとでひとり確認しては不安になって泣いていた。

 それでも生まれた証しを残すのと、いつか成長したら本人に見せてあげたいとの気持ちで撮影を続けた。

■インスタグラムに届いたDM

 田尾さん自身は先に退院し、病院と家を往復する日々のなか、インスタグラムのアカウントで写真の投稿を始めた。そこには、「1000g超えおめでとう!」「また感染症にかかっちゃっていた」「保育器と呼吸器を卒業しました! これで抱っこが出来る!」といったコメントとともに、奏ちゃんが懸命に成長する姿が投稿されている。

 すると次第に田尾さんのもとに、見知らぬ人からダイレクトメッセージが届くようになった。

「どんな薬を使っていますか?」「月に何g増えましたか?」

 同じ状況にある、お母さんたちからのものだった。

「私自身、出産直後はとにかく情報がほしかった。なので、私もできる範囲でちゃんと答えようと思っていました」

 そんななか、同じく1000gに満たない赤ちゃんを出産することになった知人からも相談を受けた。

「動揺していたとき先生の言葉は頭に入らなかったけど、私の言葉は入ってきたと言われて。同じ経験をした人の言葉は説得力があって安心感につながるのなら、本という形で情報を残してみようと考えたのです」

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正直に大変だったことも本には書いた