■母子像にとらわれ自分を責めたことも

 今回一冊の本にするにあたり、決めたことがある。ひとつは、できるだけ詳細に書くこと。症状、薬の名前、体重、成長過程。当時の日記をていねいに振り返り、最後には担当医にもチェックしてもらった。そして、もうひとつは当時の思いを隠さず伝えることだ。

「インスタグラムはいろんな人が見るので、ポジティブにしようと心がけています。でも本では正直に大変だったことも書こうと思いました」

 出産直後は痛々しい姿を見てかわいいと思えなかったこと、母性が欠けているのではと自分を責めたこと、街やSNSなどで母子や妊婦を見るたび「出産=幸せ」というイメージにとらわれて胸が痛んだこと。

 さらに、発達障がいの疑いがあり、退院後も成長するにつれ育てづらさを感じていたことなどが、本には率直につづられている。

「たとえ健康に生まれても、つらいことはありますよね。多くの人に共感してもらえたらと思っています」

 退院してからも続いた手術、今後の就学の問題などいくつもの壁が立ちはだかるが、つらい時期は絶対抜け出せる。そう自分自身に言い聞かせてきたという田尾さんのパワーの源になるのが、本の中におさめられた、生きようとする奏ちゃんの姿だ。

「必死にもがいていたんですね。赤ちゃんには生きようとする選択しかないんです。いまはつらい状況にいる人にも知ってもらえたら」

 奏ちゃんはもうすぐ5歳になり、元気いっぱいの男の子に成長した。タイトルは入院中、撮った写真を見返しながら『大丈夫。今日も生きている』と確認していたことが由来だ。

「今は口げんかをして普通にムッとしちゃうこともあります。でも、当時のことを思い出さなきゃっていつも思うんです」

(アエラムック編集部・宮崎香菜 )