その重要性は、ひとつには知恵の多様性があります。イスラエル人はもともと指図に従属するより、むしろ自分たちのやりたいように他のやり方を探していくという傾向があります。よく知られるジョークに、「イスラエル人が2人いると三つの意見が出る」というものがあります。この傾向が新しいアイデアの源泉となっていて、ハイテク産業などイスラエルの創造力として前向きにとらえられています。

 一方で、その態度はコロナ対策として国のガイドラインに従わなければならないという社会的な協力態勢をつくることにおいては、悪い傾向かもしれません。

 この「不従順の文化」は、現在は政治家に対する信頼感の欠如として表れています(イタリアでも同じ?)。このコラムでも書きましたが、このコロナ禍においても大規模な反政府デモが続いていて、「民主主義を守るために必要なこと」としてデモに参加している子連れの家族をふつうに見ることができるのです。

 イスラエルの人々は、日本人が非常事態宣言下、旅行や自由に外出することを避けたと聞いて驚いています。その理由が「国から求められている」ということにびっくりしているのです。米プリンストン大のシェルドン・ギャロン教授は、この状況を『鋳型にはめられた日本の心』という著書の中で、以下のように説明しています。

「日本では政府と国民の関係が濃密である。100年以上にわたり、市民社会は政府と共に困難に打ち勝ち、問題を解決するために、緊密な共同体関係を作ってきた。これは西洋諸国で見ることのできる『統治政府』と『市民』の二つのはっきりとした分類とは似ても似つかないものである」

「不従順の文化」はイスラエル社会における極めて大きな特徴のひとつです。それにはとても多くの長所もあります。ただし、コロナとの闘いにおいてはこの特徴がうまく機能していないと、私は思います。

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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Nissim Otmazgin

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〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授。トルーマン研究所所長を経て、同大学人文学部長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年ヘブライ大学にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に贈られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。2012年、エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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