新しいウイルスによる感染症はこれからも数年おきに必ず起こります。ウイルスから社会を守ろうと思ったら、「医療は商品ではない。すべての人は等しく良質の医療を受ける権利がある」という原理を「世界の常識」として採択するしかない。アメリカの現状を見れば、誰でもそう考えるはずです。

■強硬トランプ、切実ジョンソン

岩田:基本的に僕も内田先生と同じ考えですが、アメリカはトランプ大統領が「失敗してない」って言い張ってますからね(笑)。これで一気に変わるかどうかは、わからないのが正直なところです。

内田:僕はアメリカの医療現場のことは知らないんですけれど、3千万人近い無保険者の人たちというのは、病気になったときにどうしているんですか? まったく受けられないということはないですよね?

岩田:いやもうあの国は、保険がなければ救急車すら呼べないですからね。救急車呼ぶのに無保険だと、日本円に換算して数十万も請求されるんです。実際にコロナに罹った人が街で倒れたのに救急車が呼べず、放置されて感染を広げてしまったケースもありました。

 結局コロナに関しては議会で問題になって、無保険の人たちもちゃんと助けてあげようって話になりました。でも制度が決まったときにはもう時すでに遅しで、感染が蔓延してしまったんです。内田先生がおっしゃるように「貧乏人はほっとけばいい」という姿勢を国が続けると、感染症が起こったときに国民みんなが倒れちゃうんですね。

 アメリカ型の新自由主義に基づく医療と、感染症のパンデミックは、非常に相性が悪いことが今回世界中の人に思い知らされたのは確かです。イタリアもコロナでとても痛い目に遭ってますが、やはりその背景には近年の同国における医療の効率化がありました。おそらく今後、ヨーロッパでは多くの国が医療制度について再考を始めるはずです。

内田:実際にイギリスでは、コロナに感染して入院していたボリス・ジョンソン首相が退院した後に、国民健康保険であるNHS(National Health Service)の効用をほめたたえていましたね。

岩田:はい。あれにはかなり驚きました(笑)。

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コロナに罹って変わったジョンソン首相