第1話で、武田家の行く末について息子たちと頭を寄せ合います。

<武田は滅びるぞ!>

 キャストが集まっての初のホン読みで、僕から自然に生まれた口調は、慌てんぼう親父のハヤクチでした。まるで、悪ガキどもが密談しているように見えたといって、スタッフの方々が喜んでくれた。よし、これでいくぞ。

 第2話では、声高らかにこんなことを宣言します。

<わしにとって最も大切なのは、真田の一族じゃ!>

 体のなかで昌幸像がどんどんふくらんでいきました。三谷さんの台本には、じつに魅力ある人間臭い真田昌幸の息遣いがきっちり描かれていました。だから、このホンのままに生きればいい。安心して暴れられる。

 直球でいこう。そう決めました。
 
 昌幸が、自らを語る台詞が第5話に出てきます。

 本能寺の変での織田信長の自害を知り、<なんで死んでしまうかのう、信長め!>と叫ぶ昌幸は、息子の問いに対して逆に問いかけます。

<わしの本心か……でははっきり言おう、まったくわからん! 源三郎、どうすればいいのか、この父に教えてくれ……源三郎……教えてくれ!!>

 そして言うのです。

<わしゃあ、海を見たことがない。山に囲まれて育ったゆえな。しかしいま、わしは海の中にいる。あっちにもこっちにも大きな渦が巻いとる。このまま織田に従うか、はたまた明智の誘いに乗るか、上杉に掛け合うか、北条に頭を下げるか、いずれにしてもわしらのような国衆には、力のある大名にすがるしか生きる道はない。しかし、真田安房守昌幸、この荒海を渡りきってみせる。国衆には国衆の生き方があるのじゃ。誰が最後の覇者になるか、しかとこの目で見極めて、喰らいついてやるわ! 面白うなってきた!>

 乱世をゆく家族船。海を見たことのない男の荒海ほど、凄まじい光景はないのではないか。試練を<面白うなってきた>と評するのは、波瀾万丈をとことん楽しむ昌幸の、腹の底から出たナマの声でした。どの瞬間も真剣勝負で向き合う男の宣誓です。

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堺雅人さんからの質問に…