靱帯骨化は中高年以降に多く発症しますが、その原因は、はっきりとわかっていません。遺伝的因子やカルシウム代謝異常、糖尿病、肥満、老化、全身的な骨化傾向、骨への機械的なストレスなどが関係因子として指摘されています。外傷やスポーツとの関連性については、はっきりとしたデータは出ていません。

 骨化が大きくなると、脊柱の動きが悪くなり、背中や腰に痛みが生じます。また、黄色靱帯の骨化層が厚くなって脊柱管が狭くなると、脳からの指令や身体情報を伝える脊髄が圧迫されてしまい、感覚障害や運動障害などの神経症状が起こる場合があります。一般に、骨化した靱帯が脊柱管内の50%を超えると、脊髄症状を発症する危険が高くなるといわれています。脊髄の圧迫がどの程度かを調べるため、MRI検査がおこなわれます。

「黄色靱帯骨化症」は多くが胸椎に起こります。そのため頸椎の場合にみられるような上肢の症状は表れず、初期症状としてはおもに下肢のしびれやこわばり、脱力などが多くみられます。症状が重度になると、ふらつきなどの歩行障害や、排尿・排便障害が表れるため、日常生活に支障をきたして介助を要するケースもあります。

 残念ながら現状では、骨化の進行を抑制する治療薬はまだありません。原因不明でまだ有効な治療薬がなく重篤な症状が起こりうることから、「黄色靱帯骨化症」は「後縦靱帯骨化症」とともに、国の特定疾患として難病に指定されて研究が進められています。

 現在のところ、おもな治療法として患部を安静に保つための固定療法や、しびれや痛みを改善する消炎鎮痛剤や神経障害性疼痛(とうつう)治療薬などの薬物を用いた保存療法をおこないます。転倒の衝撃をきっかけに重度のまひを生じることがあるため、日常生活においては転倒しないように十分に気をつけることが重要です。

 この病気の進行スピードは、比較的にゆっくりであることが多く、数年たっても症状が変わらない人も半数近くいます。ですが、なかには神経症状が表れ始めて数カ月のうちに急に悪化する進行が速いケースもあるため、慎重な経過観察が必要です。患者によって進行の仕方はさまざまであるため、脊椎脊髄病の専門医のもとで適切な診断・治療を受けることが大切です。

 保存的治療で効果がみられない症例や重症例には、手術を選択します。通常、胸椎後縦靱帯骨化症では、背中側の椎弓を切って脊髄の圧迫を除く「椎弓切除術」あるいは「椎弓形成術」がおこなわれます。黄色靱帯骨化症の手術は一般的に1~2時間程度。入院期間は、約2週間ですが、この病気は神経の回復が遅いため、リハビリに3~6カ月ほどを要します。

 進行がゆっくりであるため、手術をためらう患者も少なくありません。しかし、脊髄症状が進んで神経が戻らない状態になってからでは、せっかく手術をしても麻まひが残ることがあります。主治医が患者の病状をみきわめて、手遅れにならないように適切なタイミングで手術を提案できることが理想的です。一方、手術をした後も、引き続きほかの場所に骨化が起こっていないかどうか調べるために、年に一度は定期的に診察を受ける必要があります。経過が長いため、一生つきあえる信頼できる専門医にかかることが大切です。(文/坂井由美)