「気象病」は、頭痛や関節痛といった痛みや、持病の悪化の他、めまいや肩こり、イライラや倦怠感といった不定愁訴を引き起こします。気候の変化の中でも、特に気圧の変化が引き金になると言われていますが、発症するメカニズムは解明されていません。メカニズムについては諸説ありますが、今回は二つご紹介したいと思います。

 一つ目は、気圧の低下です。

 暖かい空気と冷たい空気の境目である前線や低気圧が接近することによる気圧の低下や、気圧が低い状態が長く続くことにより、ヒスタミンと呼ばれる物質が体内で盛んに生成されます。ヒスタミンは血管の透過性を上昇させて全身の様々な部位にむくみを引き起こしたり、血管を拡張させたり、炎症反応を引き起こす作用を持っています。そのため、生成されたヒスタミンによる脳のむくみや、血管の拡張による血管周辺の神経の刺激によって、頭痛が引き起こされてしまうのです。

 この頭痛を「偏頭痛」ともいいます。ストレスや過労、特定の食べ物や薬の他、天候や大気汚染が偏頭痛の前兆因子として報告されています。

 例えば、ハーバード大学公衆衛生学部のWenyuan氏らは、片頭痛を有する成人98人を対象に、平均 45 日間の追跡、合計 4406 日間の観察を行った結果、暖かい季節(4~9月)は相対湿度が高いほど片頭痛の発生確率が高く、寒冷期(10月~3月)は、交通関連のガスの汚染物質(オゾン量および一酸化炭素量)片頭痛の発症確率を高めている可能性があると報告しています。

 また、ボストン・チルドレンズ病院のPatricia氏が77人の偏頭痛の患者を対象にして質問を行ったところ、39人(50.6%)が天候に敏感であり、48人(62.3%)が自分は天候に敏感であると考えていたことがわかり、さらに26人(33.7%)は絶対温度と湿度に、11人(14.3%)は変化する気象パターンに、10人(12.9%)は気圧に敏感であったといいます。

 メカニズムの二つ目は、気候条件の変化や気候の急激な変化による自律神経の乱れです。

 興奮したり緊張したりするときに働く交感神経と、リラックスした状態ではたらく副交感神経の2種類の自律神経は、内臓や血管などの器官に対して互いに相反する働きを持っています。気候条件の変化や気候の急激な変化によって、自律神経のバランスが崩れてしまい、結果として頭痛や関節痛などの痛みの他、イライラなどを引き起こすと考えられています。

 気候条件の変化や気候の急激な変化は、自分ではどうしようもありません。けれども、どんな天気のときにどんな症状が出るのかを把握し、天気予報を見ながら対策をとることはできそうです。私も、自分自身の体調の変化と気候の関係の把握から、早速始めてみようと思います。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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