いじめとともに、最近増えているのが保護者対応だ。学校側が対応を間違えると大きな問題になる。教員の過剰労働のひとつに、この保護者対応が含まれているという。

「保護者の中にはエキサイトして、担任を変えるように学校に要求したり、夜中まで電話をかけるなど、過剰な行動に出る人もいます。もちろん違法な要求に応じることはありませんが、そういった行動の背景には保護者のいろいろな思いが隠れていることも多いです。その背景を見極めることが、解決の糸口につながります」(山口弁護士)

 事実関係を調査した上で、法律とは違う視点で親への対応をアドバイスすることもある。事例ごとに経験を積み重ねることで、無理な要求を重ねる背景が汲み取れるようになるという。山口弁護士は、スクールロイヤーについて、次のように話す。

「子どもの権利に関わる仕事をしたかったので、やりがいを感じています。最近はSNSでのいじめや望まない写真の拡散など、新しい問題も生まれています。常に勉強が必要です」

 スクールロイヤー制度自体は新しいが、学校と契約して法律的な助言をするスクールロイヤーは以前からいた。真下麻里子弁護士もその一人で、現在もスクールロイヤー制度とは別に、一弁護士として学校に関わっている。

「問題が生じたときの相談も受けますが、それ以上にいじめ防止のための啓発活動に力をいれています。学校はトラブルが起こったときに行動を起こしますが、予防的な視点が少ないように感じています。弁護士としての知見を教育の場に生かし、いじめが起きにくい土壌を作るため、生徒を対象に授業を行っています」

 授業は年に1回、3年ほどかけて行う。初回はまず、「いじめとは何か」の共通認識を持つことだという。

「いじめは悪いとみんなが思っている。でも、具体的にどのような行為がいじめなのかという共通認識がない。そこから始めます」(真下弁護士)

 たとえば『合唱コンクールにいつも遅刻してくる生徒が、熱心に練習している生徒からいじめられた』『DVDを破損した生徒を、DVDの持ち主がいじめた』といった仮の設定を立て、何がいじめにあたるのかを生徒たちで話し合う。さらに進むと、いじめに関わらない『中立』は果たして本当に中立か、学びを深めていじめの構造を知る。3年目は、模擬調停などのロールプレイを通して、法的な視点からいじめについて考えるという。

「往々にして教育現場では、『DVDを壊した生徒も悪い』と五分五分にし、握手をさせて仲直り、という解決方法が取られてしまいがちです。でも法的な見地から見れば、DVDの破損は財産権の侵害で、いじめは個人の尊厳・人格権の侵害にあたります。その違いを認識し、どうすれば解決できるのか、生徒たちに考えてもらいます」(同)

 参考までに、学校の相談への関わり方の例も挙げてもらった。

「たとえば、男子生徒が性的な動機から女子生徒の私物を盗んでしまう、といったことは多くの学校で起こりうることです。その際、事態が発覚したことで男子生徒がひどく落ち込んでしまうと、学校側はどうしても女子生徒の方をなだめようとしてしまいます。でも本来は男子生徒が100%加害者で、女子生徒はあくまでも被害者です。その認識をしっかり維持したまま対処しないと、女子生徒本人や保護者の理解を得られず、適切に解決できないばかりか、女子生徒の尊厳の回復にも繋がりません」(同)

 真下弁護士は問題の根を残さないためにも、問題発覚の早い時点でスクールロイヤーを利用してほしいという。

「学校という場で、弁護士にできることはたくさんあります。気軽に声をかけてほしいです」(同)

 教員の疲弊を軽減し、生徒が学校生活を健全に過ごすためにも、スクールロイヤーの役割は大きい。

(文/柿崎明子)

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