真下弁護士によるいじめ防止のための授業。年に1回、3年ほど続けて行う。具体的な事例を挙げて、いじめをなくすためにはどうしたらいいか、生徒みんなで考える(写真提供:NPO法人ストップいじめ!ナビ)
真下弁護士によるいじめ防止のための授業。年に1回、3年ほど続けて行う。具体的な事例を挙げて、いじめをなくすためにはどうしたらいいか、生徒みんなで考える(写真提供:NPO法人ストップいじめ!ナビ)
学校から上がってきた相談を受け、教育委員会からスクールロイヤーに連絡。スクールロイヤーは、主に校長と電話や面談で助言を行う。相談の他に、問題を未然に防ぐためいじめ防止授業なども行っている
学校から上がってきた相談を受け、教育委員会からスクールロイヤーに連絡。スクールロイヤーは、主に校長と電話や面談で助言を行う。相談の他に、問題を未然に防ぐためいじめ防止授業なども行っている

 2018年に放送されたドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」により、その存在が知られるようになった『スクールロイヤー』。いじめや虐待から子どもたちを守るため、教員の負荷を減らすために、よりよい教育の場を作るために、スクールロイヤーの挑戦が始まっている。AERAムック「大学院・通信制大学2021」では、その現状を取材した。

【図解】スクールロイヤーとは?

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 今、学校ではいじめや虐待、モンスターペアレンツ、教員の過重労働など、さまざまな問題が山積みになっている。2011年に滋賀県大津市で起こったいじめは、いじめを受けていた中2男子生徒の自死という、最悪の結果を迎えたが、この事件がきっかけとなって、13年に「いじめ防止対策推進法」が制定された。

 そして、弁護士の力を借りていじめを防止しようと、文部科学省の主導で、複数の自治体で試験的にスクールロイヤー制度の導入が始まった。日本弁護士連合会も18年に「子どもの最善の利益」のためのスクールロイヤーの整備を求める意見書を提出している。さらに萩生田光一文部科学大臣は19年9月の定例記者会見で、法務相談体制の整備のため、スクールロイヤーを全国に約300人配置する方針を発表した。

 スクールロイヤー制度発足の経緯を、千葉県のスクールロイヤーとして活動する石垣正純弁護士は次のように話す。石垣弁護士は私立高校の教頭から弁護士に転身し、少年事件も数多く手がける教育と法のエキスパートだ。

「文科省は、当初はいじめ問題の対策に力点を置いていました。しかし19年に千葉県野田市の小学4年生の女児が父親による虐待で死亡した事件で、教育委員会は父親にあらがえず、女児のアンケートのコピーを渡してしまっていた。これは法的に見ると情報開示の問題ですが、もしスクールロイヤーが介在していたら、このような事態は防げていたかもしれません。この事件をきっかけにいじめだけでなく、スクールロイヤーが虐待など学校の諸問題に広く関わることが期待されるようになりました」

 文科省からは(1)学校や教育委員会からの法務相談への指導助言、(2)コンプライアンスや紛争予防に関する教職員研修、(3)トラブル発生時の初期対応などが期待されている。石垣弁護士が特に力を入れて取り組んでいるのが、教員や児童生徒に対する研修や授業だ。

「法の知恵があれば、問題が大きくなる前に防ぐことも可能です。いじめの問題はもちろん、虐待、消費者問題、ワークルールの問題、男女格差、保護者対応など、スクールロイヤーとして先生方や児童生徒たちに、法の知恵を広く伝えて行きたいと思います」

 現在、学校がスクールロイヤーに相談する場合、校長や教頭からスクールロイヤーに依頼するという流れが主流だが、石垣弁護士は「一般の教員が気軽に相談できるような、身近な制度になることが理想」だと強調する。

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