「真っ直ぐの球速自体はそこまで悪くないが、投げる球のほとんどが上ずっていた。フォークなどの変化球は曲がりが早く、打者には簡単に見極められる。投げる球に困って力勝負に行って打たれる形」

「当日のテレビ中継では、スピンが効いた良い真っ直ぐ、と語っていた。でも実際は2試合とも登板直後からアップアップの状態。記者席では、危ないな、という声が聞かれていた」

 スピンの効いた伸び上がるような真っ直ぐと、落差の大きいフォーク。時折、目先を変えるためのカーブを投げるが、基本的には球種は2つだけ。打者からするとマトは絞りやすい投手であることには間違いない。

「キャンプから順調にきていた。開幕延期になったことが影響を及ぼしているのかもしれない」と、長年にわたって藤川を見てきた阪神担当記者は、変則日程の難しさを語る。

「長年やってきたので、通常のシーズンに向けての調整方法が身体に染み付いている。特にクローザーは試合の勝敗を左右する役割だけに、技術以上に精神的な重圧がすごい。オンとオフのメリハリの重要性を藤川もよくわかっている。開幕に向けオフからオンに切り替え得つつあった中での開幕延期。気持ちの糸が多少、緩んだとしてもおかしくない。いったん下がったものを再び盛り上げていくのは大変。とくにベテラン選手ほど難しいのではないか」

 長い間、プロ野球の世界にいたからこそ、経験で身につけた調整方法がある。今年のように極端なまでの日程変更があれば誰だって対応に苦しめられるはずだ。

 昨年までプロ生活19年間(MLBで3年)で日米通算243セーブ(MLBで2セーブ)。名球会入り資格を得る日米通算250セーブまで7に迫っていた。周囲がざわつく中でのスタートだったが、藤川自身のモチベーションは別にあったという。

「周囲はセーブ記録のことばかりを取り上げていた。でも本人は個人記録など気にせず、常にチームのことを考えていた。阪神が勝つためならセーブがつかない場面でも志願してマウンドに上がるような男。昨年CSファイナルで負けたのが相当悔しかった。今年こそセ・リーグ優勝を果たして、日本シリーズ進出、その先の日本一しか考えていない。だからこそ現状、最も悔しい思いをしているはず」(前出の阪神担当記者)

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球児は必ず戻ってくる?