シーズン前には阪神関係者から「目標は日本一しかない」と威勢の良い声が聞かれていた。誰もが本気で頂点を狙っており、藤川は誰よりもその思いが強かった。ところが蓋を開けると、開幕から大きく躓いた。その後、チームは少しずつ調子を取り戻し、これからの時だっただけに、藤川の無念の思いは想像を絶する。

「もともとスロースターター。しばらくして実戦感覚に戻れば復活するだろう」

 他球団スコアラーは現状を踏まえた上で、開幕直後の不調は毎年のことだという。

「現状は身体の開きが早くて、球離れが早くなっている。真っ直ぐが浮いて、変化球の曲がりが早いのはそのため。打者からは球種が見極めやすくなっている。多めに投げこんで感覚を取り戻す。そして走り込んで下半身の粘りと身体のキレが出てくれば、すぐに復活するだろう。昨年も夏あたりから別人のような投球内容になったからね。戻ってくるとやっかいだから」

 藤川のいない今のうちに、阪神を叩いて貯金を作りたいというのが本音のようだ。各関係者の話を聞いてみても、藤川の存在は他球団にとって脅威なのがわかる。

 今年に限っては年間120試合という短縮された日程での開催。早い段階で差がついてしまうと、届かなくなってしまう。加えて今季セ・リーグはCSシリーズが開催されない。日本一を目指すには、上位とゲーム差を離されるわけにはいかない。

 だからこそ藤川は早期での離脱、調整を自ら望んだのだ。なぜなら本気で頂点を狙っている。

 ベテランの強みは経験によって培われた対応力。自身のコンディションについては藤川本人が1番わかっている。遠くないうちに藤川は必ずマウンドに帰ってくる。そこまで阪神が踏ん張っていられるか、が大きな問題だ。戻って来た時に好位置につけていれば、チャンスは必ず大きくなるだろう。