周波数分解能の低下は、加齢に伴って起きる「加齢性難聴」のひとつの症状ではありますが、病院や健診などで診断される「医学的な見地からの難聴」とは異なります。医学的な難聴は、主に「どれくらい小さな音が聞こえるか?」を測る聴力検査によって定義されるからです。

 つまり「無自覚難聴」は、病気や障がいではなく、誰もがなる自然な老化現象を指しているのです。

「加齢性難聴クイズ(https://youtu.be/vJaTNbnvqxU)」という動画で、周波数分解能が落ちた加齢性難聴の聞こえ方を体験できます。

 この動画の声は、70歳くらいの人の聴覚を模擬したものなので、40歳代でここまで聞こえにくくなっている人は少ないでしょう。ですが、内耳の能力(有毛細胞の毛の本数)のピークは20歳といわれており、そこから長い年月をかけて、少しずつ少しずつ衰えていきます。本人に自覚がなく、周囲の人も気が付かなくても、40歳を過ぎたあたりから、多くの人に仕事や日常生活で何らかの支障が出始めているのです。

 以前から、40~50歳くらいの人に、“聞こえ”に関する聞き取り調査を行ってきており、ほぼ全員が20歳のころに比べ、特に言葉の聞き取りに関する何らかの支障を仕事や日常生活で感じていました。

 この結果から、40歳以上の人の、低く見積もっても5割、実際には8割以上が周波数分解能低下による「無自覚難聴」と考えて差し支えないと思われます。

■ゆっくり、ハッキリ、大声を出さずに話す

「自分の言いたいことが相手に伝わらないな」と思ったら、相手が無自覚難聴なのかもしれません。

 人間は相手に言いたいことが伝わっていないと感じたら、無意識のうちに声が大きくなります。しかし、無自覚難聴の人に大声を出しても、話の内容は伝わりません。伝わるのは、「何か大声で怒鳴っているな」ということだけです。

 必要なのは、とにかく「ゆっくり」話すことです。

 ただし、言葉と言葉の間(ま)を長くしただけでは、ゆっくりとは言えません。言葉の一文字一文字を、少し極端なくらいにゆっくりと発音することです。

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「ハッキリ」話すコツは?