次の瞬間、下柳は「何で捕れないんだ!」とばかりに怒りを爆発させ、マウンドにしゃがみ込むと、後ろ向きにひっくり返った。さらにグラブを左手で地面に叩きつけて悔しがった。

 なおも1死満塁で相川の遊ゴロが併殺崩れとなり、1点を失うと、再び激昂し、マウンド前方でグラブをバシッと叩きつけた。

 だが、次打者・金城龍彦を右飛に打ち取り、ベンチに戻ってくると、ようやく興奮も収まり、捕手・矢野輝弘と和やかに言葉をかわした。

 6回から「暴れ過ぎたから代えたんや」と岡田彰布監督に交代させられ、リリーフ陣が終盤に崩れる冷や汗ものの展開も、9対7で逃げ切り、白星ゲット。3年連続の二桁勝利とともに、阪神の39歳以上では、49年の若林忠志以来の二桁勝利というダブル快挙を実現した。

 試合後、平常心を取り戻した下柳は「あんなことやっちゃ、いかんわ。みんな一生懸命やってるのに申し訳ない。自分から四球出してる(のが悪い)」と反省しきりだったが、この日のパフォーマンスは、“秀太事件”として多くのファンの脳裏に刻み込まれることになった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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