こだわったのは、「とにかく幅広くカバーする」ことだった。
「私のコンサートには10代から80代まで、幅広い世代が来てくださります。アルバムも誰もが楽しめるようにしたかった」
選曲のなかで、新しい自分に出会えた瞬間を感じた一曲があった。
「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(サカナクション)は自分の世界観になかったものだった。アレンジの方向性も、自身のオリジナル曲だとできないようなものがつくれた。今までにない絢香が見えたかな」
カバーアルバムを受けて行われるはずだったLIVE TOUR 2020 “遊音倶楽部~2nd grade~”だが、全公演で無期限延期となった。
「お客さんの安全が最優先ですし、他のアーティストたちも悔しい思いをしている。いかにライブという場が貴重かを改めて感じましたし、直接会えるありがたみを忘れてはいけないと思いました」
■変わり続ける音楽業界で「届けたい音楽」とは
デジタルへの移行が他のジャンルよりも早かった音楽業界は、「リアル」に代わるファンとの交流の場が生まれ、存在感を高めている。次世代の通信規格「5G」サービスが日本でもスタートされ、新たなライブ体験も続々と登場するだろう。エンターテインメントが大きく変わる可能性を絢香はどう感じているのか。
「直接会えるコンサートが一番大好きな場所なので大事にはしていきたい。でもその一方でオンラインのコンサートができるようになれば、自分がどこにいてもファンと同じものを共有できる。この状況が落ち着いた後でも、通常のコンサートとは別にやっていきたい。時代ごとに変わっていくものはあるし、それに自分も乗っかってチャレンジしていく。それでも、音楽そのものは変わらないと思っています」
これまで尊敬するアーティストの楽曲をカバーしてきた絢香だが、アーティストを目指す人たちにとっても、絢香の楽曲をカバーして影響を受けているはずだ。そんな次世代には何を感じているのか。
「今は音楽を発表する場が沢山ある。SNSに投稿したものに誰かが『イイネ!』を押したり、それをシェアしたり。私が学生の頃には考えられなかった。誰もが世界中に向けて発信できるわけで、チャンスは多いですよね。私がみていてもすごい人はたくさんいるし、刺激になります」