黒岩は灘高校、早稲田大出身だ。灘高の後輩には現職知事が2人いる。徳島県の飯泉嘉門、三重県の鈴木英敬で、2人とも東京大出身の元官僚である。2017年、兵庫県知事選挙に灘高出身でコラムニストの故・勝谷誠彦が立候補したが落選する。勝谷が当選していれば、灘出身の知事が4人となり、地方行政で灘高が大きな勢力になるところだった。

 徳島県の飯泉知事は、新型コロナウイルス感染症対策として、県外ナンバーの車の流入調査を行うと明言した。ところが、県外ナンバーの車の運転手に暴言、あおり運転などの嫌がらせが起きてしまう。これについて、飯泉知事は「強いメッセージになりすぎたかも知れない」と釈明する(朝日新聞デジタル、4月25日)。そして、こう呼びかけた。「県外ナンバーを見ると石を投げたくなる、こうした方々もおられるわけでありますが、ぜひお気を付けをいただきたいと思います」(徳島県ウェブサイト、4月28日)

 東京大出身の知事には、地元の進学校出身者で国家公務員のキャリア官僚という経歴が多い(カッコ内は出身高校。無印は公立、◎は私立、□は国立)。

 前出の岩手県・達増知事に加えて、茨城県・大井川和彦(水戸第一)、新潟県・花角英世(新潟)、富山県・石井隆一(富山中部)、岐阜県・古田肇(岐阜)、愛知県・大村秀章(西尾)、京都府・西脇隆俊(◎洛星)、奈良県・荒井正吾(□奈良女子大附属)、和歌山県・仁坂吉伸(桐蔭)、広島県・湯崎英彦(□広島大附属)、山口県・村岡嗣政(宇部)、香川県・浜田恵造(観音寺第一)、高知県・濵田省司(◎土佐)がいる。

 知事の出身大学ランキングで東京大が圧倒的に強いのは、東京大出身の官僚(とくに自治省<現・総務省>や経済産業省の官僚)が、リタイアあるいは途中で転身し、地元または赴任先などゆかりの地で地方行政を担おうという志を持っていたからだろう。地元政財界から地元出身のエリート官僚が「ご指名」されるケースもあるようだ。この傾向は大都市圏よりも地方都市に見られる。

 ただ、官僚出身の知事は、北海道の鈴木知事、東京都の小池知事、神奈川県の黒岩知事、大阪府の吉村知事のように、存在感を示すような言動はあまり見られない。強いて言えば、岩手県の達増知事、愛知県の大村知事だろうか。政策ブレーンに徹し表に出てハデな振る舞いはしない、スタンドプレーは決してしないという官僚の習性と関係があるのかもしれない。

 出身高校別で2人以上は以下のとおり。◎灘3人、◎開成2人(山梨県・長崎幸太郎、鳥取県・平井伸治)、◎慶應義塾2人(埼玉県・大野元裕、愛媛県・中村時広)、◎洛星2人(静岡県・川勝平太、京都府・西脇隆俊)、□広島大附属2人(広島県・湯崎英彦、宮崎県・河野俊嗣)。※出身大学は中退を含む。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)<文中敬称略>