ライブの内容にも工夫が必要だった。最初は「子どもを笑わせるなんて簡単だろう」と思っていたが、実際にはそれほど生易しいものではなかった。

 子どもにはオナラがウケるだろうと思い、『ドレミのうた』の替え歌で全部の音階をオナラの音に変えた歌を披露したところ、ウケたのは最初の「ド」だけで、2つ目以降のオナラがすべてウケないという地獄を味わったこともあった。

 また、子どもは大人ほど我慢強くないし集中力もない。いきなり全力でネタを始めると泣き出したりするし、一方的にネタをやるだけでは退屈してしまう。声を出させたり、ボールを投げさせたり、風船を使ったり、飽きさせないための工夫を繰り返してきた。

 また、演出の中には「ためになる」という要素も入れた。子どもに早起きを勧めるヒーローや、洋菓子より和菓子の方が血糖値が上がりにくいという知識を教えてくれる「あずキング」というキャラクターを演じたこともあった。

 子どもにとってためになるという要素を入れておくと、保護者を喜ばせることができる。子どもをライブに連れて行くかどうかを判断するのは保護者の役目である。小島はそこにも配慮していた。

 そうやって試行錯誤を重ねながら、小島は確実に子どもたちの心をつかめるような芸人に成長していった。今回、小島が新たに始めた算数の授業というのも、子どものためになる知識を提供しているという点で、今までの活動の延長線上にあるものだ。

 単なる子どもだましは子どもには通用しない。子ども向けのエンターテインメントを極めるには、大人向けのものと同じくらいの努力と工夫が必要だ。一発屋と揶揄されながらも芸能界をたくましくサバイバルしてきた「海パン先生」こと小島よしおの授業動画には、彼の情熱のすべてが詰まっている。それが見る人の心を動かすのだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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