■同じ作品をみんなで見る。その一体感が映画館

 4つめの策は、全国の映画館にもメリットがある仕掛けにした。アップリンクの配給で4月24日に公開を予定していた映画を、まずは「アップリンク・クラウド」にてオンライン先行上映を行い、売上げの一部を上映予定だった映画館に配分することにした。

 映画館の経営者として、家で映画を見るサービスを拡大することに葛藤もあった。

 あるときTwitterで「映画を見るときに大切なものはなにか」と尋ねると、多くの人が「見る環境」だと答えた。また映画の作り手は、スクリーンで上映することを想定して作品を作っている。浅井さんは作り手のこだわりを最大限引き出せる空間づくりを心掛けていた。そんなこだわりの場に人が集まり、同じ作品を見る時間を共有する。

「そこに生まれる一体感が映画館なんだと気づきました」

 だから、原点に立ち返ってみた。5つめの策は、映画の「同時再生会」。Twitterで、映画のタイトルと上映日時を決めて呼びかけ、参加する人はオンラインや自前のDVD等で映画を見る。そしてTwitter上で決められたハッシュタグをつけて実況や感想を共有する試みだ。開催はまだ一度だけ。アップリンクの収入には繋がらないが、タイムラインでは盛り上がりをみせた。

 このような活動をしていると、ときに「映画文化を守るために頑張ってください」と言われることがある。有難い反面、少し違和感もある。

「文化を守る前に、僕は会社を守らなければならない。サービスを提供してお金をもらい、経営を持続させること。お金儲けをしないと文化も死んでしまうんです」

 国や都の給付金や助成金も申請しているが、現状の補償では一カ月の賃料も賄えないという。

「いま、映画館を開けることはできないけれど、映画をみる時間や感動を共有する場はなくしたくない。収益を確保することと、映画館を好きだと思ってくれるファンを維持すること、その両方が大切だと思っています。とくに我々のようなミニシアターがなくなってしまうと、映画文化の多様性も失われてしまう。今はできる限りの努力をして、いつかまた映画館に人が集まれるようになる日まで頑張るしかないと思っています」