新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、全国の小規模映画館(ミニシアター)はいま閉館の危機にさらされている。そんな中、あの手・この手を繰り広げているのが東京・渋谷、吉祥寺に映画館をもつアップリンクだ。損失補填のためにはじめた策が、いまや映画館の本質を考えるきっかけにも繋がっている。代表の浅井隆さんに聞いた。
【写真】オンラインの映画館「アップリンク・クラウド」60本以上見放題プラン
2020年3月下旬、緊急事態宣言が出る前のこと。アップリンクの2館は週末の休館を決めた。2月下旬から、入場者にアルコール消毒やマスク着用のお願いをするなどの策を講じていたが、感染拡大を防ぐためにはやはり休館が必要と考えたからだ。だが、週末を休館にすると、売上の半分以上がなくなる。「これはやばい。会社が死んでしまう」。ここから、あの手、この手を繰り広げた。
■見放題、寄付、そして回数券も
最初の策は、見放題キャンペーン。自社が運営するオンライン映画館で、自社が配給する作品60本以上を何度でも見ることができるキャンペーンだ。映画館に足を運んでもらえないぶん、オンラインで映画を楽しんでもらえる。3カ月でわずか2980円とおトクな価格設定だ。これまでアップリンクは、配給元としてもアート系、インディペンデント映画など独自性の高い作品を世に出しており、そのラインアップも評価された。キャンペーンを開始したのは3月28日のことだ。
「損失を少しでも埋めようという気持ちでした」
4月。7都府県に緊急事態宣言が出たことを受け、平日も含めた全日休業をやむなくされた。
そこで、すかさず2の策。先ほどのオンライン映画館に「寄付込み見放題プラン」を加えた。見放題サービスに少しだけ寄付がついたプランで、5000円・1万円で販売した。1・2の策とも多数の申し込みを得た。
「Twitterで告知したところ、思った以上に反応があって驚きました」
客側から「もっと支援をしたい」という声も多数寄せられた。そこで企画した3つめの策は、“早割チケット”だ。ソフトドリンク付き上映券。10枚綴りで1万3000円と極めてわかりやすいサービスだが、映画館で作品を見たいファンにはおトクで嬉しい。安心して映画を観られるようになったら、アップリンク全館で使用できるという。
ここまで、わずか約2週間。苦しいながらも一貫していたのは、支援をもらうことではなく、適切なサービスを提供することだ。
「支援ではなく、サービスに対する対価をもらいたかった。“寄付付き”と称されたプランも、ただお金をいただくのではなく、たとえばオンラインで映画をご覧いただける期間を長くするなど、お客さまに納得いただける工夫しました」