第二の判断基準は「顔」です。私たちは目鼻口が相応の位置にあるパターンを「“生き物”の顔」ととらえやすい傾向があります。壁のシミが「ぶきみな幽霊」に見えるのも、この手の現象です。たまたま目鼻口のように見える位置にシミがあったのですね。それなのに私たちは、「幽霊の思いは何か」「何をうらんでいるのか」などと、思いをめぐらせてしまいます。

 ウイルスは、顔も動きも見えませんが、私たちに危険を及ぼす存在です。その危険を回避するためには、受動的なものと考えるよりも、能動的なものと考えるほうがいいのです。「やつらはどんな人に感染するのが好きなのか」「どんな環境を嫌うのか」などと、“生き物”のように考えると、ウイルスの性質理解や感染防止対策を考えやすくなるのです。だから私たちは、ウイルスを“生き物”と見なしがちなのです。

【今回の結論】ウイルスは生物学的には単なる物体に過ぎないが、“生き物”と見なすことで人間が生命の危機を回避するための対策を取ろうという気持ちが高まり、方法も考えやすくなる。

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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